28 / 29

第27話─湊─

 あの電話から数日が経った。  蓮はあれから短いメッセージを送ってくれるようになった。  朝の挨拶や、勉強のこと、学校であったことなど。  返信することもあれば、しないこともある。  突然、連絡が取れなくなったあの日。  何度もメッセージを送り、鳴らないスマホを握りしめた夜。  DMですら、蓮からの返信だと期待していた日々。  届くメッセージに一喜一憂することに、少し疲れていた。  それでも、蓮からのメッセージが途切れることはなかった。   ―おはよう。今日は英語の小テストがある― 『おはよう、君は英語苦手だったよね』 ―学校で友達がアイドルグループの話をしてたんだけど、全然分からなかった―  蓮はそういうの、興味ないもんね。 ―晴臣さんが卵焼きを作って真っ黒に焦がしてた―  晴臣さんともうまくやれているんだね。  挨拶なんかは、まだすんなりと返信が打てる。  それ以外は、画面をなぞっては指が動かなくなってしまう。    それでも翌日には―― ―おはよう。昨日の夜シャンプーと間違えてボディーソープで頭を洗ってた―  蓮からメッセージが届く。  蓮、君はそこにいる?  遠く離れていてもそこにいてくれる? 『おはよう。髪の毛が大変になったんじゃない?』  少しだけ、少しだけ蓮の傍に行きたい。  君のその姿を見てみたいよ。  そんな他愛のないやりとりが何日も続いた。  気がつけば、蓮からのメッセージを待つことへの恐怖が薄れてきた頃だった。 ―進路についてはそっちの大学を受験しようと思っているんだ―  そんなメッセージが飛び込んできた。 『……そうなんだ』  なかなか返信できず、彼のメッセージに対してこう返すのが精一杯だった。 ―第一志望にいけるかどうかギリギリなんだけど、頑張るよ― 『……君ならできると思うよ。応援してる』  どこの大学?  あの家から通うの?  部屋を借りるつもりなの?  そんな思いが頭を巡るなか、絞りだした言葉だった。 ―湊は?― 『僕も絶賛勉強中だよ。お互い頑張ろう』 ―もし、受かったら……―  蓮のメッセージが止まった。  スマホを持つ手が、震えた。 ―お前に会ってもいいか?―  すぐに返信することができなかった。  呼吸が、わずかに乱れた。  幻影から君は逃れられたの?  そのうえで僕に会いたいと思ってくれている?  君に言った憧れの残滓のままではない?  『僕』を見ると言った君に会うのが怖い。    でも……君がその影を抱きしめたとしても、  僕は受け入れてしまうのかもしれない。  寂しさと喜びを抱いたまま、君の胸に抱かれることを選ぶのだろう。  そんな未来を想像してしまう。 『いつか、笑って会えるといいね』  蓮に返信ができたのは、翌日の朝になってからだった。

ともだちにシェアしよう!