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第3話 二人だけの同窓会
「はは、確かに。当時は父親に対する反発心がすごくてさ。今はまあ、年もとったし丸くなった」
「ああ、父親に反抗したい気持ちはわかるよ」
僕は頷いた。
うちは僕だけ放任主義だったけれども、昔は兄が滅茶苦茶反抗していたことを思い出す。
ただ相楽とは違って、父の敷いたレールの上は走らない、という方向だったけれども。
「そうか? 今回だってその父親の頼みで今ここにいるんだろ?」
「うん、まぁそうだね」
「お前は昔から人付き合いだけは上手かったよな。いっつもクラスの中心にいて、青春を謳歌してますって顔してた」
「なんだよ、人付き合いだけって」
いやまさにそうなんだけど。
成績も運動もイマイチだったけど先生とかに可愛がられるタイプだったから、授業点でなんとかなったようなものだ。
困ったことがあっても、いつも周りにいる誰かが、助けてくれた。
「褒めてるんだよ。天海はムードメーカーでさ、どこにいても、俺の視界に入ってきた」
そうか、相楽の目から僕はそう見えていたんだ。
なんだかくすぐったいような、不思議な気持ちになる。
当時はクラスの誰にも興味ありません、視界に入っていません、みたいな態度だったのに。
「褒めても、なんもやるもんないよ」
僕はおどけて言う。
当時はお互いほとんど絡むことはなかったけど、こうして話すとまるで旧友であるかのように、そこから自然と会話は弾んだ。
お見合いというより、二人だけの同窓会だ。
食事中も、当時の生徒指導の先生がどうとか、校舎がリフォームしたらしいとか、制服が変わるらしいとか、体育祭の名物だった組体操がなくなったとか、誰がどこの会社に行ったとか、誰が結婚したとか、とにかく色々話して、二人だけで大いに盛り上がった。
だから時間が経つのはあっという間で、もっと話したいと思うくらいには楽しかった。
割り勘だと思っていたら相楽が会計を済ませてくれていて、ゴチになる。
連絡先を交換したから、次に僕が奢ればいいだけだ。
「天海、ここまで何で来た?」
「ん? タクシーだよ」
「じゃあ、家まで送る。車で来てるから」
「それなのにお酒を飲もうとしたのか?」
「その時は代行呼ぶし」
そして別れ際、相楽ももう少し話したいと思ってくれたのか、僕を家まで送ってくれることになった。
「少しドライブしてもいいか?」
「いいね、首都高でも回る? でもあんまり飛ばさないでよ」
金髪ヤンキーだったころの相楽を思い出して、念の為釘を刺す。
直ぐに理解したらしい相楽は、嫌そうな顔ではなく、愉快そうに笑った。
「はは、了解」
綺麗な夜景を見ながら再び会話が盛り上がり、そういえばこれって一応見合いなんだっけ、と思い出した僕は、相楽に声を掛ける。
「なあ相楽、そういえばこの見合いって、なんのために……」
セッティングしたの? と聞こうとしたのだが、相楽は真剣な顔で運転したまま、僕の言葉に言葉を被せてきた。
「天海。また今度俺と、会って欲しい」
「うん? 勿論、いいよ。次はどっかに遊びに行こうか」
「あと、名前で呼びたい」
「え? ああ、下の名前ってこと? いいけど、相楽は相楽って呼んだほうがいいんだよな」
「そんなこと、知ってたのか。昔は、自分の名前が女っぽく感じて嫌だったんだ。読み方がキヨラじゃなくて、セイリュウなら良かった」
やっぱりそうかと思いながら、僕は自分を指差す。
「そうなんだ? でも、僕のほうが女っぽい名前だと思うけど」
「お前……世那は昔から下の名前で呼ばれても平気だったよな」
「うん、気にしない。自分の名前、嫌いじゃないし。僕は清流って、いい名前だと思うけど」
相楽は清い流れというより、清々しい流れって感じだけど。
僕がそう言うと、相楽はぽつりと呟いた。
「……俺、世那にだったら呼ばれたいかも」
「そう? じゃあこれからは清流って呼ぶよ。ところで清流、そろそろ日付を跨ぎそうだけど」
「ああ、そうだな……」
話の流れで帰宅を促すと、清流はわかりやすくがっかりしたような空気を纏わせた。
え、なんだ、可愛いなこいつ。
こう、飼い主にだけ懐く番犬って感じがする。
多分だけど、高校の同級生で清流が普通に話せる相手は少なくて、僕はその数少ない相手の中の一人なのだろう。
たった今からだけど。
今の清流だったら、友人なんていくらでも作れそうだが。
「僕は今日楽しかったからさ、また直ぐ遊びに行こうよ」
ゴチになった分も、忘れる前に返しとかなきゃだし。
「……世那ってホントに、そういうところだよ……」
どういう意味だ?
僕が首を捻っている中、清流は続ける。
「俺も、また直ぐに会いたい。次はいつ会える?」
僕はスマホでスケジュールを確認し、あまり早すぎるのも変かと思い、一カ月後の予定でどうかと提案する。
なのに、清流はじと、とした眼差しで僕を見た。
「世那の休みって、一カ月後にしかないのか? 次の休みはもう予定入ってるってこと?」
「い、いや、そういうわけじゃないけど……」
「次の休みはいつ?」
「ええと、明日?」
つい、普通に答えてしまった。
答えてから、いや明日に会う選択は流石にないだろうと思い直す。
恋人でもあるまいし。
しかし清流は、僕の返事にぱぁと顔を輝かせた。
そのスキル、高校時代に発揮していたらだいぶ違った青春時代を送れたと思うんだけど。
「じゃあまた明日」
「え? まあ清流が平気なら、僕は構わないけど」
「よし、じゃあ明日は上下長袖長ズボンの、動きやすい格好してきて。連れて行きたいところがあるから」
「ん、わかった」
明日はたいした予定もなく、どうせ家にいてもだらだらとスマホやパソコンを弄って時間を消費するだけだ。
清流は一人暮らしをしている僕のマンションまで送ってくれて、「明日も迎えに来る」と言ってくれた。
聞けば清流も、ここから車で一時間ほど走ったあたりで、一人暮らしをしているらしい。
僕が清流の利用駅まで電車で行くよ、と言ったけど、問題ないと押し切られた。
明日ガソリン代を全額払えばいいか、と割り切って僕は頷く。
「んじゃまた明日」
「ああ、楽しみにしてる」
まるで恋人同士のやり取りだな、と思いながら、僕は清流の車を見送った。
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