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番外編 春の真ん中で

 春が巡り、青陵高校の桜がまた咲いた。花びらが風に乗って舞い上がり、空を淡く染めていく。まるで、あの頃の俺たちを祝福するみたいに。  並んで歩く俺たちの指には、同じ銀のリングが光っていた。陽の光を受けてきらりと反射するその輝きが、なんだかまだ信じられない。  あの頃、無鉄砲で手当たり次第に突っ走っていた俺が――いまはこの人の隣で、生涯を誓って歩いているなんて。 「なぁ、今度の連休さ。青陵の後輩たちに結婚報告しに行こうぜ」 「お前……あの学校に行くと確実に騒ぎを起こすだろ。やめておけ」 「え~、派手にやりたかったのに!」 「はぁ……」  涼は呆れたようにため息をついたけれど、その頬には微かに赤みが差していた。春風がやわらかい彼の髪を撫で、花びらが頬にひらりと落ちる。その瞬間、胸の奥が熱くなる。何度見ても、この人の笑顔は反則だ。たぶん、一生慣れない。 「涼」 「なんだ」 「幸せだな、俺」 「知ってる。顔に書いてある」  涼の言葉に、思わず笑ってしまう。笑えば、涼もつられて笑う。そして、どちらともなく指を絡めた。その温もりが、心の奥まで染みていく。  思えば、ここまで来るのに何度も迷った。家のことも、身分のことも、どうしようもない壁もあった。だけどそれを超えるたび、俺たちはちゃんと強くなった。 「なぁ、涼」 「ん?」 「これからもずっと、隣にいるからな」 「知ってる。だから俺も、ここにいる」  胸がいっぱいになった。言葉なんて、もういらない。ただこの手を離さなければ、それでいい。  ――青陵の春は、今も心の中で咲き続けている。笑って、泣いて、ぶつかって、それでも選び合ったこの道を。 「行こう、虎太郎」 「おう。俺たちの“これから”へ!」  満開の桜の下、ふたりの影がひとつに重なった。その光景がきっと一生、俺の心の春として咲き続ける。 おしまい ☆ここまでお読みくださり、ありがとうございます。 途中、手直しをしながら連載しておりました。 ちなみに2年生の佐伯と榎本が《届かぬ調べに、心が響き合い》という作品にサブキャラとして出ております。

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