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視界があまい

 作業に没頭していたらとっぷりと日は暮れ、終電も無くなる時間が迫っていた。  塁は帰宅を諦めて、会社の規定通り仮眠室の申請を出し、すぐに承認されると大きな欠伸をする。間違いなく編集したデータは保存、バックアップも取ってパソコンの電源をオフにした。  塁の勤める会社は日本で最大のアダルトビデオメーカーなので、撮影スタジオや設備、社員が宿泊できる環境はホテル並みに充実している。急な仕事、撮影にも対応できているので、帰れなくなることがそこまで苦ではなかった。 「腹減ったけど……もう無理、寝たい」  時間の感覚を取り戻した途端に疲労が全身を襲った。風呂も明日の朝起きてからのシャワーでいい、それくらい寝床につきたかった。  さすがにコンタクトレンズは外そうと、仮眠室の近くの男子トイレの洗面台に向かう。そこには先客がおり洗面台で何かを洗っていた。 「お疲れーっす」 「あ、お疲れ様です」  見るからに制作部の新人ADが、洗面台で数本のディルドを洗っていた。 「撮影大変っすね」 「はい、うちの看板の燈真さん主演の女性向けだから…ハハハ」  女性向けAVは企画から脚本、監督まで全て女性社員、女性クリエイターが指揮をしているので、男性向けに比べるとあちこちに細やかなこだわりが求められ、全てのスタッフは1作品を作り上げるのにかなりの労力を要する。 (今、同じ建物に燈真さんいるんだ…………)  先程までパソコン越しに見つめていた芸術的マグナムチンポの持ち主が近くにいる。それが分かると塁は少し唾を飲み込んだ。  疲れているからか、下半身が熱くなり始めた。 (やっば………最悪……寝たいのに……)  会社の仮眠ベッドで夢精をするわけにもいかない。さっさとコンタクトを外した塁は急ぎ気味に「お疲れ様」とAD社員に挨拶をし、トイレを出て、割り当てられた仮眠室へ早歩きする。 ドンッ  コンタクトを外して視界がクリアでないことも重なりすれ違った人と ぶつかった。相手のガタイが良いからなのか、疲労困憊でヒョロガリの塁は簡単に尻もちをついた。 「ご、ごめんなさい…っ」  相手はすぐに謝って塁を起こそうと屈む。 「いえ、俺も前見てなかったから、すいません…」 「立てますか? 手を…」  少し浅黒い逞しい手を差し出されたらしく塁は素直に手を取って、立ち上がると勢い余ってまた前のめりに倒れそうになる。すると相手が「おっと…」と塁のヒョロガリ体躯を抱き留めた。 「あ…っ」  半勃起していた塁のチンポが相手の太ももに掠って、それが少し刺激になってしまい高い声が漏れ出てしまった。 「あ、あの、ごめんなさいっ! また転びそうに…っ!」  塁は慌てて相手から離れる。すると相手は舌なめずりをすると、塁の細い腕を引っ張り自分の胸に収め、塁の耳元でしゃべる。 「ちょっと、人のいないとこ…いこうか」  いやらしい低音ボイス、その声は、さっきまで塁がヘッドホンで聞いてた声で… 「……と、う…ま……?」

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