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理性があまい

 塁は自分が予約した仮眠室とは反対方向に引っ張られて、相手のされるがままについていく。 「あ、あの…うちの専属の燈真さんですよね?」  引っ張られながら塁は相手に訊ねる。  相手の答えを聞く前に目的地に到着したようで、相手がカードキーを使って部屋のドアを開けた。 (方向と距離を考えると、ここは仮眠室は仮眠室でも男優さんと女優さんが使うプレミアム仮眠室⁉ いち社員が使えないあの…)  塁のこの会社では専属の女優・男優は女神様神様という会社理念があり、彼らに対しては一流ホテルに引けを取らない最高の宿泊設備が用意されている。  重厚なドアが閉まる音、センサーで明るくなった部屋はおそらくシャンデリア、塁の推測は確信に変わった。 「燈真さん、ですよね?」 「そうだよ、動画編集部のキサラギくん」 「な、なんで俺の名前…」 「名札」 「あ…」  首から下げてた社員証にばっちり記名されているから、それはそうだと納得する。 「それとビデオ統括部長の毒島(ぶすじま)さんから聞いてたんだ。俺のチンポを芸術的だ、国宝だって叫んでいっつも修正が甘い編集マンがいるってこと」  塁は顔が真青になる。  制作現場に赴く部署に所属しない限り、神様である演者と会うことなど絶対にないと思っていた塁にとって、自分の主張が本人の耳に入っていたことは正に青天の霹靂。 「滅多なことを叫ぶんじゃなかった…」  塁は急に恥ずかしくなり後悔を口にした。 「嬉しかったよ。俳優で芽が出なくて、何となくハマったAV男優の道で、まさか同性に熱心にそう言われるなんてね。毎日チンポのトレーニングをして努力が報われた気がしたよ」  嬉しそうな声に塁はキュンとした。 「それで、キサラギくん……この国宝チンポは画面越しに見るだけでいいの?」 「へ⁉ そ、それは…そ、それは…それ、だけで……」 「本当に?」  目を逸らしていた塁を燈真は覗き込んで、いやらしく訊ねた。塁は力いっぱい目を瞑って視界からの情報をシャットダウンすることに努める。 「本気出せば、俺の腕なんて振りほどけたはずだし、逃げられた」 「う……ぅ…」 「今だって、この社員証を使えばこんなドア、開けられるよね?」  社員証のICカードは、仮眠室の内側からなら自由に鍵を解錠できるカードキーになっている。まだ社員証は塁の手にある。だけど、抵抗できない。 「俺のチンポ、欲しい?」  理性のバリアが甘くて、負けた。 「欲しい、です…♡」  塁の社会の窓が燈真の手で解放される。

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