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第4話

放課後。 チャイムが鳴り終わる前から、一ノ瀬が「今日も行くぞー!」と叫んでいた。 黒瀬の家に集まるのは、もう日課みたいなもんだった。 最初は勝手に押しかけてきたのが始まりで、今では断っても誰も気にしない。 玄関を開けると、一ノ瀬が靴も揃えずに上がり込み、 久遠は無言でスナックの袋を提げて入ってくる。 「マジで広いよな、この部屋。見かけはボロいけど」 「お前ん家が、汚いだけだろ。」 「ひでぇ!」 「はいはい、菓子の袋捨てろ。」久遠が淡々と注意する。 黒瀬はゲームの電源を入れながらため息をついた。 「……うるせぇな、今日も。」 「うるさくねぇと死ぬタイプなんだよ、俺は。」 その軽口に、黒瀬は小さく笑いそうになって、自分で止めた。 ⸻ ゲームを始めても、集中できなかった。 視線の先に、昼の教室がぼんやり浮かぶ。 田嶋の後ろで、おとなしく立ってた成瀬の顔。 表情も声も思い出せる。 けど、それが何なのか分からない。 「おい黒瀬、聞いてる?」 「……あ?」 一ノ瀬がポテチをくわえたまま顔を向ける。 「今日も田嶋と一緒にいたよな、あの成瀬。」 「……ああ。」 「仲いいんだな。毎日一緒じゃん。」 「さぁな。」 一ノ瀬がにやっと笑う。 「なにその“さぁな”。お前、珍しく気にしてんじゃん。」 黒瀬はコントローラーを置いた。 「気にしてねぇよ。」 「はい出た、“気にしてねぇ”=気にしてる理論。」 「うるせぇ。」 久遠が静かにお茶を飲みながら口を開いた。 「一ノ瀬、からかうな。黒瀬はいつも通りだろ。」 「えぇー? 俺、見たもん。昼、あいつら購買行くの見てたよな?」 「見てねぇ。」 「視線ガッツリそっち向いてたって!」 「……殴るぞ。」 一ノ瀬が笑い転げ、久遠が小さく吹き出した。 「黒瀬が“殴るぞ”って言う時点で、図星だろ。」 黒瀬は黙ってポテチをひとつつまんで、無理やり口に入れた。 味はしない。 ⸻ 夜になって、二人が帰ったあと。 部屋の静けさがやけに重く感じた。 机の上のコップに、一ノ瀬が飲みかけで置いていったジュースが残っている。 その隣に、昼に食べた弁当の記憶が蘇る。 ――あの味。 何も特別じゃないのに、妙に頭から離れない。 黒瀬はベッドに倒れ込み、天井を見つめた。 「……知らねぇ。」 誰に言うでもなく呟いた言葉が、部屋にぽつんと落ちる。 そのまま目を閉じたけど、成瀬の顔が浮かんで、なぜか眠れなかった。 ⸻ 知らねぇ感情。 なのに、胸の奥だけがやけに騒がしい。

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