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第7話

熱が下がってからの登校は、少し気まずかった。 教室に入ると、一ノ瀬がすぐに声を上げる。 「お、黒瀬復活ー! 死人が帰ってきたぞ!」 「死んでねぇ。」 「顔が死人だったって!」 久遠が笑いながら席を詰め、田嶋が「無理すんなよ」とお茶を差し出す。 その中に、成瀬がいた。 一瞬、目が合った。 成瀬は、いつも通りに「おはよう」とだけ言った。 その声を聞くだけで、昨日のあの瞬間が脳裏によぎって、黒瀬は思わず目を逸らした。 (……忘れろって。) ⸻ 昼休み。 気づけば、同じ机を囲んでいた。 「黒瀬、今日パンどうする?」 「……適当でいい。」 「じゃ、行こうぜ。田嶋も、成瀬も。」 一ノ瀬の一言で、いつの間にか4人が立ち上がる。 久遠も笑って「俺も行く」と続いた。 購買の列。 今日はお弁当は持ってこなかった。 まひろは手にトレーを持ちながら、不思議な気分でその背中を見ていた。 前まで“怖い人たち”だったのに、 今は当たり前みたいに一緒に並んでいる。 他の人からは、ジロジロ見られることが多かったが、気にしてもしょうがないので気にしないことにした。 「お前、何食う?」 黒瀬がふと声をかけてきた。 「え? あ、えっと……」 「これ、うまいぞ。」 そう言って、黒瀬が指差したのは焼きそばパン。 「……あぁ。」 (前は、あれを買えなかったのに。) 小さく笑って、頷いた。 ⸻ 昼食は自然に5人で机を寄せた。 誰かの話に誰かが突っ込んで、笑い声が続く。 ふと横を見ると、黒瀬が静かにパンをかじっている。 何も話していないのに、その沈黙がもう怖くなかった。 (……なんでだろう。) ⸻ 放課後、教室を出るとき。 一ノ瀬が笑いながら言った。 「おい、成瀬。明日は頼むなー。」 「え? 何を?」 「おにぎらず班長だろ。」 「……聞いてないよ。」 「もうそういう流れになってんだよ。」 黒瀬が、少し笑った。 「任せた。」 「なんだよそれ。」 「“悪くねぇ”って意味だ。」 その笑顔がほんの少し柔らかくて、成瀬は一瞬だけ言葉を失った。 ⸻ 気づけば、いつも5人で行動するようになっていた。 一緒に食べて、一緒に笑って、購買にも、なんとなく一緒に行く。 「怖い」から「普通」に変わった。 でも、その“普通”が妙に嬉しい。 (……悪くねぇ。) 誰かがそう呟いたような気がして、成瀬は顔を上げた。 窓の外は、青い空が広がっていた。

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