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第10話
昼休み。
教室の真ん中、5人で机をくっつけていた。
パンの袋が破れる音、笑い声、牛乳パックのストロー。
そのどれもがいつもと同じ。
けれど、まひろの弁当の中身は、少し違っていた。
「ん?弁当食わねーの?」
一ノ瀬が覗き込んで言う。
「いや、食べるよ……」
いつもより声が小さい。
フタを開けた瞬間、卵焼きが潰れて形を失っていた。
「あら、やらかしたの?」
久遠が笑いながら言う。
まひろは一瞬、固まる。
(……やらかしたんじゃない。朝はちゃんときれいに詰めた。)
でも、そんなこと言えるわけがない。
すぐに笑ってみせた。
「そうなんだよ。入れる時、力入りすぎて。」
「味は変わらねぇって。」
黒瀬が軽く言う。
その言葉に救われたように、まひろは「うん」と返した。
⸻
放課後。
黒瀬は忘れ物を取りに教室へ戻った。
扉を開けると、数人のクラスメイトが残っていて、まひろの机の上で何かを笑っていた。
「マジかよ、まだ書いてんの?」
「だって見てみ? このノート」
ページのあちこちに、青いボールペンの線。
昨日より増えていた。
その中心に、まひろ。
苦笑いを浮かべて立っていた。
「やめろよ。」
「お前がネタくれるからだろー。」
その瞬間、黒瀬と目が合った。
「……それ、どうした。」
黒瀬の声は低く、静かだった。
まひろは一拍遅れて笑った。
「俺がやっただ。暇つぶしみたいなもんで。」
「は?」
「だかは、気にしないで。」
それを聞いて、クラスの空気が凍った。
犯人の生徒たちは気まずそうに笑って出ていく。
教室には、黒瀬とまひろだけが残った。
黒瀬はノートを見つめながら言う。
「……お前がやったって嘘だろ?」
「え?本当だよ。」
「朝、弁当潰れてただろ。」
「……」
「あれも、本当にただの失敗か?」
まひろは何も言えなかった。
沈黙のまま、目だけが揺れていた。
「……本当だよ。」
やっとのとこで、そう言って笑うその顔は、昨日までよりもずっと薄く見えた。
⸻
その夜。
机の上でノートを開いたまま、まひろは手を止めていた。
ページをめくるたびに、青い線が目に刺さる。
(自分でやった…。)
自分で言った言葉が、何度も頭の中で繰り返された。
窓の外はもう真っ暗で、時計の針がいつの間にか日付を越えていた。
眠れなかった。
目を閉じても、黒瀬の声が耳の奥に残っていた。
(……どうして、あんな顔で見たんだろう。)
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