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第12話

昼休みのチャイムが鳴った。 まるで何もなかったかのように、教室には笑い声が戻っていた。 黒瀬、一ノ瀬、久遠の3人。 屋上に行くみたいだ。 中心にいる黒瀬の笑顔は、いつも通りに見えた。 (……ほんとに、元に戻ったんだ。) 田嶋がそっと立ち上がって、 「行こう」と小さく声をかけた。 2人は教室を出る。 誰も呼び止めない。 その沈黙だけが、少しだけ痛かった。 ⸻ 向かうのは、屋上とは反対側の階段下。 誰も来ない、ひんやりしたコンクリートの空間。 かすかな風の音だけが響いていた。 「ここ……なんか懐かしいな。」 田嶋が笑って、床に腰を下ろす。 成瀬も隣に座り、弁当を開いた。 「卵焼き、今日も入ってるじゃん。」 「うん。ちゃんと形になった。」 「そっか。よかった。」 それだけ話して、 あとは長い沈黙が続いた。 「ごめんな…あの3人との時間、俺のせいで…」 「いいよ。俺も同じことしたと思うし。 だから、もう気にするなよ。」 どこか遠くから風の音が流れてくる。 でももう、風が吹いても、何も運んでこない。 (同じ校舎の中なのに、  もう、違う世界にいるみたいだ。) 弁当を食べながら、ふと、空を見上げた。 四角い窓から覗く空は狭くて、屋上よりずっと遠くに見えた。 田嶋がぽつりとつぶやいた。 「黒瀬たち、屋上なんだろうな。」 「うん。」 「……いつか、戻れたらいいな。」 その言葉に、まひろは小さく笑った。 「戻らなくていいよ。きっと、また迷惑かけるから」 「嘘つけ。」 田嶋は苦笑しながら、弁当のフタを閉じた。 「俺、知ってるよ。  お前、あの3人のこと、好きだろ。」 まひろは何も言わず、視線を落とした。 (好きだよ。  でも、もう届かない。) ⸻ 教室に戻ると、黒瀬たち3人はいない。 田嶋が隣で言う。 「なあ、成瀬。」 「ん?」 「今日の卵焼き、うまかった。」 その言葉に、ようやく少しだけ笑えた。 ⸻ 屋上の反対側、 階段下に吹き抜ける風が二人の髪を揺らした。 (もう、同じ風に吹かれることもないんだな…) それでも、まひろは空を見上げて、そっとつぶやいた。 「……楽しかったな。」 誰に向けた言葉か、自分でも分からなかった。

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