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第5話 訪問者

ゆったりした時をすごしているところに、通信機から音が響く。 「聖龍様、今ちょっとよろしいですかぁ」 「おや、珍しいな。なんだ?」 久しぶりに私の塔の門番を務めてくれているコーダとトマスから連絡が入った。 「いや、ライアとカーマインが「遊びに来た」って言ってるんですが、お会いになりますか?」 「ライア……ああ、先だって聖騎士になった子だね。二度も来てくれるとは嬉しいものだな。もちろん会うよ、通してやってくれ」 ライアはとても丁寧に二年もかけて私の塔を探索し、結果的に聖騎士になれるほどの聖力を手にした、人の身にしては気が長くとても探究心に溢れた冒険者だ。私の塔を知り尽くしているゆえに、共に塔を管理してくれぬかと乞うてみたがフラれてしまった。 塔の外でカーマインという名の友……今は番になったらしいが、その男が待っているからだと言っていた、今日も共に来たという事は睦まじく暮らしているのだろう。良きことだ。 通信を切ると、私の髪をいじっていたヨギが、不安そうな顔で聞いてきた。 「聖騎士が来るの? なんで?」 「遊びに来たと言っていただろう? 私が退屈していると思って、遊びに来てくれたのだろうね」 そう返したら、ヨギは途端に寂しそうな顔をした。 「セイリューさま、タイクツなの?」 「そうだね、お前が来るまでは退屈だと感じることも多かったよ。私の命はお前には想像もつかないほどに長いのだから」 「おれがいると、タイクツじゃない?」 「ああ、毎日がとても楽しくなった」 「セイリューさま、大好き!」 ヨギが可愛らしく飛びついてきて、しっぽを思い切りブンブンと振り回す。相変わらず感情表現が素直だ。 そこに、扉をノックする音が聞こえて、私は彼らを招じ入れる。 「入っておいで」 「お邪魔します」 「聖龍様こんにちはー! ……あれ? ちっこいのがいる」 相変わらずライアは丁寧に、その番のカーマインは元気よく入ってきた。そしてすぐにヨギに気がついて笑いかけている。ライアの番のカーマインは真っ赤な髪の冒険者らしく体の大きい男だが、人懐こくフレンドリーだ。私の塔の門番たちとも大層仲がいいらしい。 「よう! お前、名前は?」 「ヨ……ヨギ」 私にしっかりしがみついたまま、おどおどとした様子でヨギは答える。 私と最初に出会った時にはこんなにおどおどした様子はなかったが、勢いよく話しかけられるのが苦手なのかも知れない。それでも興味はあるらしく、ヨギも彼らを一心に見つめていた。 「ヨギかー! オレはカーマイン。よろしくな!」 「カーマイン……聖騎士さま?」 「いいやーそれはあっち」 カーマインに促されて、ライアもヨギに優しく微笑みかけた。 「ライアだ。聖龍様にはこの塔で本当に助けていただいたから、時々こうしてご挨拶に来ているんだよ」 「カッコいい……セイリューさまみたい」 目をキラキラさせて、ヨギがライアを見つめる。ライアは確かに美しく凛々しい男だ。憧れるのも無理はない。納得の反応だというのに、なぜか少しだけ寂しさもあるのが不思議だった。 「あー、配色はちょっと似てるかな。でもオレの恋人だから惚れちゃダメだぞ?」 「なにバカなこと言ってるんだ。あ、そうだ。聖龍様、これ」 ライアがパシっと軽くカーマインの後頭部を叩く。次いで持っていた可愛らしい箱を開けて中身をテーブルの上に広げて見せてくれた。 「うわー! うわー! うわー! なにこれ、なんかすっごい美味そうな匂いする!!!」 いち早くお菓子の匂いを感じ取り、ヨギがキラキラと瞳を輝かせている。そんな子供らしい様がとてつもなく可愛らしい。耳がピーンと立って、しっぽがふさふさ揺れている。興味津々だ。 「ははっ、かわいーなー。お菓子って言うんだぞ。めっちゃ美味いんだ」 カーマインがヨギの可愛らしい様に、思わずと言った様子で頭を撫でている。そうだろう、うちのヨギは可愛いだろう。ちょっと誇らしいような気持ちになった。 「子供がいるならちょうどよかった。今日は下町で流行ってる菓子を詰め合わせで持ってきてみたんです。前回持ってきたケーキ、喜んでくれたみたいだったから」 「おお、それはありがたい。この塔には甘味はないからな。私も嬉しいが、ヨギもきっと気にいるだろう」 「良かった、早速いくつか開けて食ってみます?」 私はもちろん頷いた。こんなにワクワクした顔をしている幼な子にオアズケなんてできないだろう。 「そうだな、ありがとう。ヨギ、どれがいい?」 「えっ、こんなに美味そうなの、食っていいの?」 「もちろんだよ。でも分け合って食べようね。サク達にも分けてあげたいし」 「うん!!!」 煌めく宝石箱のようなお菓子の山にフンフンと鼻を近づけて吟味しているヨギを、微笑ましく思いながら眺めていたら、ニコニコ顔のカーマインからこんな事を言われてしまった。 「なんか聖龍様、前より雰囲気が優しくなった気がする」 私は驚いた。 「そ、そうか? 自分では分からないが」 「ヨギを見てる時の目とか、めっちゃ優しいし。そーだ、この子どうしたんです? 前は居なかったっすよね」 「ああ、実は」 私は事情を話す事にした。ヨギはいつか冒険者となって街へ出るかも知れない。その際は現役冒険者である彼らの知恵が役に立つかも知れないのだから。

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