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第7話 【ヨギ視点】なんでも買えるの?

「これ、お店に持っていったらお菓子くれるの?」 「そうだよ。お菓子だけじゃなくて、色んなものと交換できるんだ。ヨギが行きたいならそのうち連れて行ってお金の使い方教えてもいいけど……」 ライアがそう言ってセイリューさまを見て、またおれを見た。 「聖龍様やサクたちが教えてくれるかも知れないしね」 「だな! もうちょっとヨギが大きくなったら教えようと思ってるのかもな」 カーマインが笑って、おれの頭をわしゃわしゃした。それ、よくサク姉ちゃんに言われる。もうちょっと大きくなったらね、って。 「おれ、早く大きくなりたい……」 セイリューさまにウマイのいっぱいあげたいのになぁ。 「めっちゃ耳としっぽがしょんぼりしてる……!」 「可愛い……っ」 「可愛いだろう? うちのヨギは可愛いのだ」 おれが悲しい気持ちになってるのに、みんなはなんでだか嬉しそうでひどい。でも、セイリューさまがおれを可愛いってほめてくれる時は本当に幸せそうだから、まあいいかって思った。 セイリューさまを見上げたら、おっきな手が近づいてきて、おれの頭をやさしくなでてくれる。 「そんなにしょぼくれずとも、獣人の成長はあっという間だ。すぐに行けるようになる」 そう言っておれが大好きな顔で笑ってくれる。おれは町に行きたいんじゃなくて、セイリューさまにウマイのあげたいだけなんだけどな。でもセイリューさまの手が気持ちいいからもうどうでもいいや。 「ははは、ご機嫌だなー。今度はしっぽフリフリしてる」 「獣人は感情表現が可愛くて和むな」 なんかカーマインとライアに笑われてるっぽいけど、セイリューさまにナデナデしてもらってるから別にいいんだ。ぎゅーってセイリューさまに抱きついたら、背中ポンポンってしてくれた。嬉しい。  「ヨギ、お金はさ、いっぱいあったら色々な物が買えるから、大切に貯めておくといいよ」 「うん! おれ、いっぱいお金貯める! そんで、セイリューさまにいっぱいウマイの買ってあげるんだ!」 思ったことをそのまま言ったら、聖龍様はにっこり笑っておれをぎゅってしてくれた。 「……ふふ、ヨギは優しい子だな。だが、私のものではなく、ヨギが欲しいと思うものを買って良いのだよ」 「うん!」 セイリューさまがぎゅってしてくれるのが嬉しくて、おれのしっぽはもう、どんなふうに動いてるのか分からないくらいにバタバタ暴れてた。だってすっごく嬉しい!!! 「いっぱいいっぱい、いーっぱいお金があったら、セイリューさまも買える?」 だって、いちばん欲しいのはセイリューさまだ。ずーっとずーっと、1日じゅう一緒にいたい。 「私か」 セイリューさまは目がどんぐりみたいにおっきくなったけど、楽しそうに笑ってまた頭を撫でてくれた。 「私は金では買えぬが……ヨギが一緒にいたいと言ってくれる間は、こうして傍にいるから安心して良い」 「ホント!? じゃあずーっとずーっといっしょにいてくれるの?」 「うむ、約束しよう」 「ゼッタイだよ!?」 「ああ、絶対だ」 セイリューさまがゼッタイって約束してくれたから、おれはやっと安心できた。 「ははは、聖龍様、可愛いプロポーズっすね」 カーマインから笑われたけど、いいんだ。その日、ライアとカーマインの二人が帰ってからも、おれはぎゅーってセイリューさまに抱きついてた。 *** ライアとカーマインが遊びに来てくれたあの日から、オレはいっぱいいっぱい頑張った。美味しい肉がとれる1、2階の魔物はすぐに簡単に狩れるようになったし、お金もたくさん貯まってきた。 ロンにはまだまだ届かないけど、サクねーちゃんの身長にはだいぶ近づいたし、筋肉だってだいぶついてきた。人間で言えば十五歳くらいらしい。 ギルドに行ったら冒険者登録出来るんじゃないかって事になって、今日オレは、ライアとカーマインに連れられてギルドデビューすることになっている。 街にはもう何回も行ってるけど、ギルドも、そのあと行く予定のダンジョンも初めて行くところだから、ちょっと緊張してる。でも、冒険者になって狩をできる場所増やすってのは、オレにとってはすごくすごく大事なことだ。だって、その方が聖龍様に珍しいものをプレゼントできる。 オレがやりたい事なんてガキの頃からひとつだけだ。 聖龍様にいろんな美味しいものをたべさせてあげたい。オレが狩ってきたもので、聖龍様を喜ばせてあげたい。本当にそれだけなんだ。 聖龍様は欲の無い人で、「何が欲しい?」って聞いたって、何も欲しいものなんてない、って言う。でも、ライアたちがお菓子やケーキを持ってくると、華やかだ、珍しい、興味深い、っていっつも嬉しそうだ。 オレが強い魔物を倒したり美味しい肉を狩ってきたりすると、成長したね、すごい、嬉しい、美味しい、っていっつも褒めてくれる。オレは聖龍様が笑ってると嬉しいし、オレが狩ったものを幸せそうに食べてくれるとそれだけで満足できる。 体も大きくなった今、この塔だけじゃない色んなところで狩が出来るようになれば、きっともっと喜んでくれると思うんだ。

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