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第8話 【ヨギ視点】もう心配されるほど子供じゃない

「ヨギ、気をつけて。無理をしてはいけないよ。危ないと思ったらすぐに引き返すのだよ、これから何度だってチャレンジできるのだから」 心配で心配で堪らないって顔で聖龍様がオレの頭を撫でる。オレよりよっぽどソワソワして落ち着かない。低級冒険者には相応しくないような装備まで持たせようとするから、説得するのが大変だった。 「大丈夫だって。もう心配されるほど子供じゃない」 聖龍様に出会った頃のオレは本当にちびすけで、多分相当頼りなかったんだろう。サクねーちゃんやロンは時にはごっついゲンコツもくれるくらい厳しく優しく育ててくれたけど、聖龍様はどっちかっていうと猫っ可愛がりな感じで、褒めっぱなしで育ててくれた。 聖龍様にとってはいつまでたっても小さい、愛らしいヨギのままだ。 オレはそれが不満だった。 だって、オレは聖龍様を守れるくらい強くなりたいし、聖龍様に頼りにしてほしいんだ。もう大事に大事に守られて、世話されて、与えられるばかりの子供じゃないんだって、聖龍様にも分かって貰いたい。 「おお、これがサクが言っていた反抗期か……! なんと愛らしい。こうして成長して行くのだなぁ」 「サクねーちゃん達だってこの塔で育ったんだろ」 「ああ、だが七階のヤシフ達が育ててくれたのでな、こんなに密には接していなかったのだよ」 「へー、ヤシフ爺ちゃんたちが」 「だからヨギの成長のひとつひとつが嬉しくて」 満面の笑みでそう言われてしまえば、オレのしっぽはついついファサファサと揺れてしまう。聖龍様が笑ってると、どうしたって嬉しくなるんだからもう止めようがない。 オレは聖龍様にぎゅ、と抱きついてから聖龍様に囁いた。 「オレ、聖龍様に、だいぶ大人になったって思って貰えるくらい頑張ってくるから。ちゃんとダンジョンの魔物狩って帰ってきたら褒めてくれよな」 「ふふふ、無論だ。頑張っておいで」 聖龍様に優しく優しく送り出され、オレはついに塔を出発した。塔を出たところにはライアとカーマインが待っていてくれて、オレはちょっとだけ緊張してきた。 これまでも塔でたくさん魔物は狩ってきたけど、正式に冒険者になって、外で狩をするのは初めてだ。そして外で野宿をするのも初めてだ。 うう。ワクワクするけどドキドキもする。 「ライア、カーマイン、よろしくお願いします!」 オレは勢いよく頭を下げる。聖龍様にもサクねーちゃん達からも、お世話になるんだからちゃんと挨拶しなさいって言われたもん。 「ああ、任せてくれ」 「ビシビシ行くから覚悟しろよー。つーかヨギ、背ぇ伸びたな!」 久しぶりに会うのにライアもカーマインも全然変わんない。オレは少しホッとした。 「ヨギ、俺たちは聖龍様からヨギが冒険者として動けるようにサポートしてくれって頼まれてるんだけど、ヨギはどうしたいっていう希望はあるか?」 「希望? オレはいっぱい狩をして、聖龍様に美味いものをたくさん食べさせてあげたい」 ライアが少し屈んでオレに目線を合わせて聴いてくれたから、オレは正直に答えた。オレの望みはガキの頃からそれだけだ。 「ああ、なるほど。旅に出たいとかそういうわけじゃないんだな」 「旅?」 「そう、この街じゃない遠い街に行きたいとか、そういうんだったら色々教えないといけない事があるから」 「今日はとりあえずギルドで冒険者登録して、ダンジョンに行くつもりだけどさ。この塔から離れるつもりがなくて時々ダンジョンに狩に行くだけっつーのと、おいおい遠出して本格的に旅をしながら冒険者するっつーのは教える内容がだいぶ違うんだよ」 ライアの説明に、カーマインが補足してくれる。 遠い街に行ったり、旅したり……その言葉に、オレの中の遠い記憶が蘇った。まだ俺が聖龍様に助けてもらう前、オレはもう顔も分からない男達に連れられて、あちこち旅をしていた気がする。なんで旅をしてたのか、その男たちがオレとどういう関係性だったのかなんて分からない。 ただ、旅はキツくて苦しくて、男たちと居た間も幸せな思い出じゃなかった気がする。それでも新しい街にたどり着いたら嬉しかったし色々物珍しい物があってオレはそれが楽しみだった気もする。 「旅に出たり、他の街に行ったら、ダンジョンとはまた違う獲物が狩れる?」 「ああ、もちろん」 「ははは、徹底してるなぁ。ヨギはとにかく、聖龍様に美味しいものとか珍しいものを食わせてやりてぇっていう、それだけなんだな。つまり」 「うん」 「お前はホント、素直なまま大っきくなったなぁ」 カーマインがぐりぐりと頭を撫でてくれる。よく分かんないけど、褒められてる? 「塔やダンジョンとは違う獲物が狩れるなら、色んなとこにも行ってみたい」 「ああ、分かった。でもそういう事ならまずはダンジョン魔物を色々狩って、もっと珍しいのが欲しくなったら旅する事も考えてみる、くらいでいいんじゃないかな」 「だな。一気に多方面覚えるよりも、ひとつひとつしっかり覚えた方がいい。まずはギルドに行くか」 「うん!」 いよいよだ。オレは、二人のあとを跳ねるような足取りでついていった。

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