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第13話 甘噛み
この体に痛みを感じたことなど随分と久方ぶりで、呆然とする。
見下ろしたら、ヨギもビックリした顔で私を見上げていた。犬耳もしっぽもピンと立って、ついでに毛も逆立っている。私の乳首を無意識のうちに噛んでしまった事に、自分でもよほど驚いたのだろう。
けれどそれはきっと、それだけ快楽が深かったという事だ。
見れば子種が私の腹に盛大に飛び散っている。上手に放てたようで何よりだ。
それにしても甘噛みなんて久しぶりにされた。そういえば本当に幼い頃にはしっぽがちぎれそうなくらい興奮している時は、稀に甘噛みされる事があったものだ。
「上手に子種を吐き出せたようだな。それで良いのだよ」
「聖龍様、オレ……ごめんなさい……」
可哀想なくらい耳としっぽがションボリしている。こんなに反省されては叱る気にもなれぬ。この子が理性を無くして噛んでくるなど、よほど気持ちが良かったのだろう。
私はヨギの頬を手で包み、安心させるように笑って見せた。
「そんなに落ち込まずともよい。気持ち良かったのであろう? 痛いほど噛むのはいただけないが、歯を立てずに舐めたり吸ったりするのは恋人とのまぐわいではごく普通の事だ。歯をたてずにはむはむと甘噛みする程度なら、恋人もヨギを愛しく思ってくれる筈だよ」
「聖龍様でも、怒らない……?」
涙でウルウルと潤む目の縁をそっと撫でて、涙を落としてやった。
「怒るものか。むしろ可愛らしいと愛でるであろうな」
本心である。
獣人の子らの愛情表現は常に直接的であからさまだ。その本能からくる行為をどうして忌避できよう。単純に可愛らしいとしか思えぬ。
「聖龍様……!」
しょげていた犬耳としっぽがぴょこんと立った。
ふふ、本当に素直で可愛らしいことだ。思わず笑う私の胸に、ヨギがポスンと飛び込んできた。まるで子供の時のように胸に顔を押しつけて体を擦り付けてくる。しっぽがめちゃくちゃに揺れて、ヨギの心情を代弁してくれていた。
自分でも悪いことをしてしまったと思っていたのであろう。子供の頃、叱ったあとに慰めると、よくこんな風に飛びついて来たものだった。本当に懐かしい。
「ごめんなさい。もう痛くしない」
そう言って舐めてくるのも子供の時の様子そのままではあるのだが、今回は何せ場所が悪い。噛まれてジンジンしていたところを舐められると、なんとなく落ち着かない気持ちになってしまう。
私は微笑んでヨギの頭を撫でた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
ヨギのしっぽが嬉しそうにブンブンと跳ねる。笑った顔が愛くるしい。
こんな風に、徐々に大人になっていくのだなぁ、とその時の私は、とても微笑ましく思っていたのだった。
ところがだ。
あの日からヨギは、私に自慰の手伝いをねだってくるようになってしまった。獣人には体が昂ってどうしようも無い時があるようで、頬を朱に染めて潤んだ瞳でせがんでくる。
どうやら最初は自分で気持ちよくなろうと頑張ったらしいのだが、どうしても私の手が加わらないと放てぬのだという。困った癖をつけてしまった。
良くないとは思うものの、見る影もなくしょんぼりとした犬耳としっぽで、クゥ……ン、と切ない声をあげて哀願されてしまえばあらがう術もない。可哀想になってしまって、最終的には手を貸してしまうのだ。
困ったと思いながらも半年ほどが経った頃だろうか。
その頃にはヨギは私の手で快感を得ることにもすっかり慣れて、腰や体を揺らして私の体や手にうまく生殖器を押し当てては快楽を得るようになっていた。少しずつ体や生殖器も成長し、表情も艶かしくなっていく。私もヨギがより気持ちよくなれる方法を、いつの間にか模索するようになっていた。
今日もヨギは、ベッドにゆったりと足を伸ばして座る私の上に跨り、至極気持ち良さそうに腰を擦り付けている。本能がそうさせるのか、私の生殖器があるあたりに擦り付けてくるのがなんともいじらしい。興が高まってくると口寂しくなるらしく、私の首や口を舐めてくる。
それを合図に、私もヨギの大きくなってきた生殖器に強い刺激を与えてやるのだ。
するとヨギは、高い声をあげて体を震わせ、しっぽの先までピンと張り詰めてさせて精を放つ。その声はとても気持ちが良さそうで、私まで嬉しくなるほどだ。一晩で何度も精を放つこともある。獣人という種はなんと力強い種なのだろうか。
男の、しかも私のような性に疎い種族の拙い手でも、放てる程度には快楽が得られるのだ。他でうまくいかないわけがない。一人ではむりだとしても、やはり他を頼った方が正しい知識が得られるに違いない。
幸せそうに私に体を擦りつけるヨギの背を優しく撫でながら、私はヨギに小さく囁く。
「ヨギ、以前も言ったかも知れないが、ロンならばもっと良い方法を知っているかも知れないのだよ。聞いてみてはどうだ?」
「やだ。だってそんなの恥ずかしい……。聖龍様にしか言えないよ、こんなこと」
「頼りにされているのは嬉しいが……いつまでもこうしているわけにもいくまい。街には娼館という、快楽を得るための店もあると聞く。ロンに聞くのが恥ずかしいのであれば、その道の玄人に教えを請うのも良いと思うのだが」
「……」
動きを止めて、ヨギが私を見上げる。その目には、涙が盛り上がってきていた。
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