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第14話 もう悲しませたくない
「オレ、迷惑?」
さっきまでの元気が嘘のように、ヨギの犬耳が垂れて震える。この分ではきっと、しっぽも見る影もなくしおれているだろう。
あまりにも悲しそうな顔をするものだから、私は思わずヨギの体を掻き抱いていた。
「迷惑などではない! 私はただ、ヨギがこの先愛しい者とのまぐわいで困る事がないように」
「迷惑じゃない? 嫌じゃ……ない?」
「嫌なものか。とても可愛いと思っているよ」
「本当?」
ピス、とヨギの鼻が鳴る。今にもこぼれ落ちそうなくらいに涙が溜まって、ヨギの銀色の瞳がふるりと揺れた。ああ、泣かせてしまうつもりなどなかったというのに。
「すまない、ヨギ。お前を悲しませるつもりなどなかったのだ。私はただ、私のようにろくな知識もない者が僅かに手助けした程度でもあんなに気持ちよさそうなのだから、獣人として正しい在り方を知ったらもっとヨギのために良いのではないかと思っただけなのだ」
「聖龍様……」
「その、けして迷惑だとか嫌だとか、そんなことは思っていない。それだけは信じてくれ……」
誠心誠意、心を込めて私の心情を伝える。しっかりと抱きしめて背中を何度も撫でてあげていたら、ヨギの耳がゆっくりと上がっていき、しまいにはピーン! と立ち上がった。
「ほんとう?」
「無論だ」
「聖龍様、大好き!!」
嬉しそうに笑ったヨギの目からは、溜まっていた涙がポロポロッと溢れた。そのまま私にぎゅうっとしがみついてくる。悲しませてしまったが、誤解は解けたようで安心する。
しかしだ。
その日を堺にヨギはより一層、私に自慰の手伝いをねだってくるようになってしまった。やっていることは以前とさほど変わらないのだが、頻度が格段に上がった。
獣人の成長は早い。私に跨って自慰する姿は艶を増し、口付けも深く激しくなっていった。グルーミングなのか愛情の発露なのか、徐々に私の首筋に舌を這わせる頻度も増えてきて、私の薄い性感が刺激される事すらある。ヨギにもそれが感じられるのか、そんな時は熱心に私を舐め、肌を嬲る。
ヨギの体は日に日に大きく逞しくなってきて、今や私の背に届こうとしている。力も強く、うっかりすると押し倒されてしまう事すらある。もはや少年、子供という印象はない。普通なら番とまでは言わずとも、恋人を連れてきても不思議はない年齢だ。
このままでいいのだろうか、という気持ちは常に私の中にある。しかし現状を悩ましく思いながらも、もうヨギを悲しませたくない私は、諾々と現状を受け入れていた。
**********
「聖龍様、ただいまー!!!」
「おおヨギ、無事だったか……!」
心底ホッとしたような顔の聖龍様。やっと顔が見れたのが嬉しくって、オレはその胸に躊躇なく飛び込んだ。
ソファから浮きかけてた聖龍様の体はオレの体重と勢いに押されて、またソファへと深く沈み込む。でもぎゅうぎゅうに抱きしめてくれてるから、聖龍様だってオレが帰って来て嬉しいんだ、きっと。
昨日からこの『聖騎士の塔』を離れて、街の外のダンジョンに魔物を狩りに行っていた。ライアとカーマインに野宿の仕方を教えてもらって、一泊二日のちょっとしたお出かけだ。保護者もいるし、期間だってそんなに長くもない。
それでも聖龍様はとってもとっても心配してくれてたみたいだ。
「ケガはないか? 腹は減っていないのか?」
「大丈夫! オレ、聖龍様が思ってるよりずっと強いんだから。魔法だって低級の回復魔法なら使えるし。メシはライアたちが食わせてくれたから大丈夫!」
「そうか……いや、理解してはいるのだが、やはり心配で」
分かってる。この聖騎士の塔を離れたら様子を見守る事すら出来ないから、聖龍様はオレがケガしないか、死んじゃわないか心配なんだよな。今日みたいに泊まりがけで狩に行った日なんかは特に不安なんだろう。
でもぶっちゃけ、子供の頃からこの聖騎士の塔で狩を続けてきたオレは、そんじょそこらの冒険者なんて足元にも及ばないくらい強くなってる。本当は全然心配なんていらないんだけど、でも聖龍様に心配してもらって、こんなふうにギュッてして貰えるのは嬉しいから、過保護だって別にいい。
「ケガなんかより聖龍様不足の方が深刻だよー! 会いたかった!」
「ふふ、たった一晩ではないか」
ぎゅぎゅっと抱きしめて、白くて美味しそうな首に顔をうずめて聖龍様の仄かな香りを堪能する。龍族だからか聖龍様は体臭なんてものが本当にごく僅かだ。獣人のオレですら首筋に鼻をくっつけて初めて分かるくらいの微かな香り。甘い桃のような淡い香りを深く深く吸い込んで、オレは悦に入った。
聖龍様の香りを知るヤツなんて、きっとこの世に数人しかいないと思う。聖龍様の側にいることを許して貰えたヤツだけの特権だ。
「……! よ、ヨギ」
聖龍様から珍しく咎めるような声が聞こえてハッとする。
しまった、無意識に舐めちゃってた。だって聖龍様のノド、白くてつるっとしてて、触るとすべすべしてて、舐めるとちょっと甘い気がするんだ。
ついつい舐めちゃうのはもう仕方ないと思う。
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