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第4話
マスターに挨拶をして店を出ると段差に少し足を取られた。
やっぱり呑みすぎた。
「はなっ!」
なんだ?
店の表通りからでは無く隣のビルと店の間の路地から声が聞こえて来た。
気にせずにタクシーを拾って帰宅すれば良かったのに俺はフラフラと声がする方へと歩いて行ったのだ。
「お前が・・・なぁ・・千紘。いいだろ?」
「離せよ!しつこいんだよ。」
千紘?
さっき店に呑みに来ていた客か?
千紘は連れに言い寄られているのか?
言い寄っているなら2人のどちらかだろうが声からして違う気もする。
俺は確かめるようにゆっくりと側に近寄ると眼に映る光景は男が千紘のズボンを脱がそうとしていた。
千紘は男の顔を押さえて必死で抵抗している。
「何してるんだよ。」
俺はそいつの肩を掴み千紘から引き離すと地面に突き飛ばした。
「なっ、何するんだ!邪魔をするな!」
「嫌がってる相手にお前は何する気だったんだ?」
「嫌がってる?千紘は喜んでるよ。」
「抵抗されていて喜んでいると思ってるのはお前だけじゃないのか?」
チラッと俺の後ろにいる千紘を見ると街灯から外れていて見えにくいが壁に力なく寄りかかり喜んでいる様にはどうしても見えなかった。
男はフラッと立ち上がり震える手でスーツのポケットから何かを取り出した。
男の手に持たれた物が街灯でキラリと光りを放った。
ナイフ?
こいつこんな物まで持ち出して何を考えているんだと思っていると目の前まで男が近づいて来ていた。
流石にヤバイと思った時に俺を庇うように男との間に千紘が飛び出して来た。
「もうやめて下さい!俺に付きまとったりしないで下さい。」
「どうしてだよ。もしかしてそいつが好きなのか?そうなんだな!だから俺を捨てようとしてるんだな!!」
「本当によくそんな妄想が出来ますよね。人が大人しくしていたらお前の頭の中はお花畑かよ。」
吐き捨てる様に男に言う姿はさっき壁に寄りかかり力なく立っていた男とは思えない。
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