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第9話

「あのすみません。向野課長。」 「泣き止んだか?」 「はい。」 「さて、夕飯の続きを食べるとするか千紘。」 ソファから立ち上がり千紘の髪をクシャクシャとして笑うと千紘も俺を見上げながら笑った。 そうやって笑ってろよ千紘。 「冷めちゃいましたね。温め直しますから待っていて下さい。」 「分かった。頼むよ。」 「はい。」 千紘はソファから立ち上がると冷めた皿にラップを掛け電子レンジの中に入れた。 俺はテキパキと動く千紘を見ながら冷めたお茶を一口飲んでから静かに深呼吸をした。 さっき迄の千紘の温もりが腕に残っていて消えてくれなくて胸が騒つくのだ。 ヤバイなぁ〜。 いい歳をしてまさか歳下にドキドキするなんて思ってもみなかった。 ストーカーも捕まったんだそろそろこの生活にも終わりを告げなくてはならない。 そう思うと急に寂しくなり始めた。 何年も1人で生活をしていて一か月だけれど誰かと生活を共にしてしまうと1人でどうやって生活をしていたんだと考えてしまうほどになってしまっている。 それほどまでに俺の中で千紘の存在が大きくなっていたのだ。 好きになってはいけない相手だと理解しているのに俺はこんなにも千紘を好きになってしまっていたんだとキッチンに立つ千紘の後ろ姿を見て改めて思っていた。

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