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第三章 答えあわせ 2-1
異様な光景だと思った。
幼なじみ二人と、レンタルすらしていないレンタル彼氏一人に囲まれながらそうめんを啜るなんて、この先そう何度も体験できるものじゃない気がする。
ともちゃんは手際よくミノリの分のめんつゆと薬味を用意し、ほのかはほのかでミノリが座れるだけのスペースを作った。
「俺、ほのかちゃんには追い返されるかと思った」
缶ビールで乾杯してすぐ、ミノリは眉を下げながらほのかに言った。なんでそうなるのよ。間髪入れずにほのかのツッコミが飛ぶ。
「俺がハルに近づくの、あんまりよく思ってなかったよね?」
「でもそのハルちゃん自身が近づくことを許してるんでしょ? 外野がそこで口を挟んだら、それこそ野暮じゃない。ねえ、ハルちゃん」
ミノリとほのかの視線が一斉に俺に向かう。気まずさから逃げるようにビールを煽るそんな俺を見て、ともちゃんは助け舟すら出さず、にやけた顔を披露した。
「本当に愛される恋愛ばかりだよなあ、春輝は」
ミノリは誰よりもよく食べた。
毎年のように同じものを食べ続けているせいで新鮮味の薄れた俺たちとは違い、そうめんが胃袋へと流れるように消えていく。
「味変として、めんつゆの中にすだち搾るのオススメ」
「そうなの?」
「そうなの。そうめんと一緒にすだちもめちゃくちゃ送ってくんのよ。少しでも数減らしてくれると助かる」
「目的はそっちか」
面白そうに肩を揺らしながら、ともちゃんのアドバイスに従ってミノリはすだちをきゅっと搾った。
そういう素直さは、ミノリの美点だ。
そうめんが皿の上からなくなるころ、話題は自然と俺たちの幼少期の話になる。ミノリがどうにも知りたがるせいだった。
「こいつはね、自分の気に入らないことがあると上級生にだって食ってかかる、警戒心の強すぎる男なのよ。んで、いつもそのフォローに回ってたのが安宅兄妹ってわけ」
「ハルちゃん、今ではかなりおとなしくなったけどね?」
からかいを含んだほのかの視線に、鼻で笑って返す。たくさん痛い目見て、大人になったからな、俺も。
「でもその芯の強さっていうか、不屈の精神って、やっぱり惹きつけるものがあるんだろうなあ」
「ハル、結構モテたんだ?」
「モテてない」
ミノリの予測を否定した瞬間、うそつけ、とともちゃんからすぐに訂正が入る。
「春輝を欲しがってたやつ、何人かいただろ」
「……モノ扱いされてもな」
たちまち肺が凍りつきそうになるのを誤魔化すように、わざとらしいほど息を吐いて、肩をすくめてみせた。
「そうそれ。そうやって近づくやつを警戒しては、片っ端からあしらっちゃうんだって。だからさ、俺はすごい気になるのよ。どうしてあの春輝が、ミノリのことをここまで許してんのか」
「ビール一本ばかりで言えるわけないだろ。吐かせたいなら酔わせろよ」
「というわけでこの話はおあずけな、ミノリくん。春輝を吐かせるには、美味くていい酒が必要なんだ」
残念だったな。ともちゃんがミノリの肩を叩く。
「本当に残念。聞きたかったなあ、俺」
ミノリの声は甘ったるい。
高い酒なんかよりも簡単に酔えてしまいそうで気が抜けなかった。
それからしばらくして、ともちゃんたちは予定していた時間よりも早めに帰っていった。直接的なことはなにも言われなかったが、多分俺たちに遠慮したのだと思う。
「もっと早くこうしたかった」
玄関先で二人を見送り、部屋に戻ってきた途端、俺はミノリに羽交い締めにされている。身動きするわずかな隙間も与えてもらえない。
「ミノリ、苦しい。力ぐらい加減しろ」
ぴしゃりと言った。
こんな言葉ひとつで、ミノリが腕を緩めてくれるとはもちろん思ってない。でも言わないと俺の正気が保てない。
「なあ、一昨日も俺の部屋で会っただろ。もう少し我慢できないのか」
「無理だよ。ハルのタイミングなんか待っていられない」
うなじに触れたミノリの吐息は熱い。啄むようなキスを汗ばんだ肌に落とされ、心臓のリズムが呆気なくミノリに左右されていく。
なのに俺の体全体はどこまでも熱を失ったままだ。
鼓膜が揺れる。夜野さんの声がする。
――ああ、そんなに「自分」を出すなんて。春輝は本当に……。
そうだ、ミノリに求められても素直に応えられない。応えちゃいけない。
俺は、ダメな子だから。
「あのな。ちゃんと待ってたら、俺から誘うって言ってるだろ」
腹に回ったミノリの手の甲を、あやすようにトントンと叩く。それに応えるようにミノリの鼻先が、俺の耳たぶを擦りあげる。
ぞく、と恐怖にも似た別のなにかが脊髄の中を走り抜けて、思わず漏れそうになる声を必死に喉で潰した。
「それならいつ誘ってくれる? 俺は毎日でもいいけど」
「毎日レンタルしてたら破産する」
「ねえ、ちなみにレンタルしなくても会えて、俺も満足する便利な方法があるけど、聞きたい?」
「一応、聞いておく」
「俺と付き合っちゃえばいい」
「って、うわ、バカ!」
力任せに抱き上げられ、そのまま二人してソファーベッドに倒れ込む。一瞬の隙でも生まれようものなら逃げ出そうと思ったが、ミノリは抜かりがなかった。
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