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第五章 さようならへの招待状 7-2
「……子どもっぽいのは嫌?」
頭を小さく横に振る。
「俺はまだハルを好きでいていい?」
「……逆だろ」
「逆って?」
「なんでおまえはまだ俺なんかを……」
「ストップ。俺なんかって言わないで」
ミノリが俺の髪をいつものやさしい手つきでかき分けてくる。たまらなくなって、ミノリの額に自分のそれを押しつける。
「……できない。今の俺にはできないから、代わりに褒めろ。俺なんかって言わずに済むように」
一応、ぶつけてるんだけど。恥ずかしさのあまりどうにもぶっきらぼうな言い方になったが「いいよ」とミノリにためらいはない。
「ハルだって、すげえかっこよかったよ。なんか結婚式に立ち会うってこんな気分なのかなあって……って言っても、小さいときに親戚の結婚式に参列した経験しかないんだけど」
「感動したってことか?」
「ハルが一生懸命に自分の言葉で話して、最後は頭を下げて……ハルがこのために俺を呼んだんだなって思ったらなんか普通に泣きそうだった。月並みだけど、本当にかっこよかった」
内側の固く閉じたところまでミノリは触れていく。
ミノリが触れた分だけ心が沈む。
一人でいたときより、今のほうがもっとずっと重くて苦しい。自分の持つ嫌な部分をことごとく目の当たりにさせられるのに、どうしたってミノリから離れられない。
ソファーベッドで繰り広げた一人きりの世界は、俺にはもう狭すぎるみたいだ。
「なあ。ミノリはまだ、俺のことを幸せにしたいと思ってるのか?」
「したい。できるなら、一生」
先ほどから続くミノリの迷いのなさに胸が詰まりそうだった。鼻の奥が痛む。
顔はきっと変に歪んでいて、それでもミノリは笑わずに俺の話に耳を傾けてくれる。
「幸せにしたいなら、写真も俺も同じぐらい大事にしろ。どっちかを疎かにしたら、俺は幸せにならない。なってなんかやらない」
「……うん。約束する」
「それから……」
「それから?」
「俺もミノリを幸せにしたいよ。俺と一緒にいておまえが辛そうなのはさすがに堪えた」
施されたキスが、俺への答えだった。
「俺のこと、そんなに好き?」
水音を立てて唇が離れ、ミノリが耳元で囁いた。どこか舌っ足らずで、すがるように。それこそ親からの無償という、尽きるはずがない愛を欲しがるように。
有限の体からいつまでも無限にミノリの熱が湧き出るはずもなく、ミノリにだって与えられるべきものがある。
耳の縁をくすぐるように触れられた瞬間、ぶわりと産毛が逆立ち、甘い痺れが理性をいたぶる。
「……好き」
どうしようもなく、好きだ。
堰を切る。心を曝け出すことへの不安を押し殺すために「好き」をやたらと重ねてしまう。
「うれしい」
うっとりとした呟きが俺の首筋を滑り、それからミノリの腕に包みこまれた。
安らぎに満ちていく。どんなに自分をさらけ出しても受け止めてくれる、そのゆるぎのない安心感が「自分」という枠から解放を促してくれる。
自然と気持ちが重なって、口づけを交わした。
唇を割り、すぐに舌が侵入してくる。一方的にやられるだけでは物足りなくなり、進んで吸いつけば濡れた音がなまめかしく鳴った。
時折皮膚を音を立てて吸いながら、ミノリの手が服の下へと潜りこんでくる。
そのまま脇腹を撫で上げられる。本来なら自分で触れてもなんてことのない場所。それなのにミノリに触れられた瞬間から自分の肌が吸いつくように反応して、早くもあられもない声が出そうになる。
「俺、今日すごく我慢してた」
必死になって声を潰すうちに、ミノリの指が胸の先に触れた。
「あの人に教えてあげたらよかったな。こんなにハルはえっちでかわいいのにって」
「ば、か……なに言って……」
縁取るようになぞられ、腹でくにくにと押しつぶされては硬度を持ってしまったそこを、ためらいなくミノリが口に含む。決死の思いで築いた防波堤にとうとう亀裂が走った。
「あ……、っ」
追い立てるように舌で嬲られる。先端をちろちろと上下にいじられるたび、快感が肺を潰す勢いで押し寄せてただ喘ぐだけの生き物になってしまう。
胸元から伝わる刺激は、兆しだけだった性器をあっという間に勢いづかせる。そこに至るまでの速さに、むしろ恐ろしさすら覚えた。
片方は口で、もう一方は指で愛撫されて重だるくなるばかりの自分の体を、なんとか腕で支えるがそれももう限界だった。
短く伝えあって二人で服を脱ぎ、裸の体をもつれ合わせながらあえなくベッドへと崩れ落ちる。
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