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第五章 さようならへの招待状 7-3
「……っん、……あ……」
吸っても吐いても、先ほどから俺の口から生まれるもの全部が甘く蕩けてしまって聞くに堪えない。
足の真ん中では、育ちきった性器が早く触られたくて疼いている。
救いを求めるようにミノリの腕を掴んでみるものの、こちらの意図は察してもらえず、施されるのは長らく胸への刺激だけだ。
「なんか今日すげえ敏感だね。どうしたの」
敏感な胸の尖りに唇を押し当てたまま、ミノリが喋る。言葉の合間の吐息ですら刺激になって、腰がシーツの上でよじれてしまう。
理由なんてわからない。
肝心な場所をずっと避けられているせいか、感度がますます研ぎ澄まされていく。
「ミノリ、頼むから……お願い……」
たっぷり時間をかけて胸を責められ、あまりのもどかしさにとうとう俺の方が根を上げた。
身を投げ打ってねだれば、ようやくミノリが胸元から顔を上げた。俺と鼻先を突き合わせ、どこかまだ余裕のある笑みを浮かべるミノリは美しく、でも憎らしい。
「ほんと、かわいい」
いつしか流れていた生理的な涙の跡に口づけながら、ようやくミノリの手が下へと伸びていく。
くちゅりと音が鳴る。先走りの蜜を全体に塗り広げつつ、ほどよく濡れたミノリの手が上下する。
極限までこちらの熱を高めておきながら、弾ける寸前にミノリは動きを緩めた。何度となくそれが繰り返される。思い描いたはずの快感はいつまで経っても得られず、動きにあわせた淫靡な音だけが強まっていく。
皮膚一枚の下で成熟しきった体は、炙った鉄のように重くて熱い。いっそ今すぐ脱ぎ捨ててしまいたかった。
「……っ、あ……待っ……」
焦らされるだけの攻防の末、ローションを垂らしたミノリの指がつぷりと奥の窄みに押し入ってくる。
あまりに滑らかな侵入に、指を入れたままミノリがわずかに驚きの声をあげた。
「ハル。もしかして自分で、した?」
一気に顔が熱くなる。恥ずかしさのあまり腕で顔を覆い隠すと、片手でやんわりと払いのけ、露出した頬にミノリがキスをする。
浴室で準備しておいてよかったと思う反面、自分の煩悩に苛まれて気が狂いそうだ。
「……気づかないふりしろよ」
「しないよ。ハルが言わないことは、俺がちゃんと拾いたいから」
「あっ……そこ、っ……」
入念に周囲を押し広げ、すっかり覚えられてしまった弱いところをミノリは浅く刺激した。
同時に今にもはち切れそうな性器も扱かれて、あまりの強い快感に思わずいやいやと頭を振る。
「やめてほしい?」
さみしさの滲んだミノリの声が、断続的な水音の狭間から聞こえてくる。
そんなわけない。もっと欲しい。寸止めを喰らって、さっきから体が膿をため込んだように疼いて、熱い。しかしミノリとの行為を覚えた今、自分の手で弄ってさっさと膿を吐き出すのも不満に思えるのだ。
「やめ、んな……」
なんとか問いかけに応えるとミノリはほっとしたように口元をゆるめる一方で、攻め手が激しさを増した。かりかりと掻くように性器の裏側の粘膜を弄られ、あっという間に再度ゴールが近づいてくるのに、やはりミノリはそこまでくると手の力を弱めた。
遠のけば、また強引に近づき、また遠のく。いいように遊ばれている。
的確な報酬をもらえないまま昂り続けた体はじっとりと汗ばみ、ミノリの吐息が肌に触れるだけでとうとう敏感に跳ねるようになった。
ここまで我慢を強いられるのは、ミノリとの行為の中で初めての経験だ。
戸惑ううちにもミノリの指は二本、そして三本に増え、比例する刺激の大きさに背中が大きくしなる。
しかし結局はまた果てそうになる寸前で勢いが弱まり、どうにも宙に浮いた状況は、次第に蚊の鳴くようなか細い声へと変えた。
「……ダメなときは、ちゃんと言って」
そう告げるとミノリはゴムを装着し、俺の両足を大きく開いた。
秘部がミノリの眼前で、滑稽なまでに晒される。しかしそれに取り乱す余裕もないままに、ミノリの先端がぐっと押し当てられた。
ぼやけた視界の中、さっきまでとは打って変わって余裕のないミノリの顔が映り込む。率先して見せないレアな表情は俺の欲求をくすぐって、ぶよぶよと溶けた思考の中で愛用の一眼レフがチラついた。
俺がずっと大切にしていたもの。手放せないとわかったもの。
――ああ、撮りたいなあ。
ふと、耳鳴りのようにシャッター音が聞こえる。
そこに重なる子どもの声は、あまりに無邪気だった。
遠い昔、初めてカメラを与えられて家の周りを無我夢中で撮りまくる。
そんな淡い記憶を、こんなときに鮮明に思い出す。
「……ハル?」
目尻を拭われる感触でハッとする。さっきまであんなに自分のことで手一杯な顔をしていたくせに、俺を見下ろすそこには気遣いが滲んでいて、見事なギャップに苦笑するしかなかった。
「ごめん、ちょっと意識飛んだ」
「平気? 抜く?」
「平気。っていうか、ここまで俺を焦らしといて抜くとか拷問だろ。やれよ、最後まで」
不安が拭えないのか、ミノリはうなずこうとしない。しかし今回はどう転ぶのかなんて、やってみないことにはわからない。
「なあ。俺、おまえとするセックスもちゃんと好きだよ」
成功してもしなくても、ちゃんと好きだ。
未だ頬に添えられていたミノリの手に擦り寄り、ちょうど口元にあった親指にキスをする。
それを合図に、中途半端に留まっていた腰をミノリが最奥まで埋めてくる。
腹の中の圧迫感に呼吸が一瞬止まって、でもしばらくすると雪解けを待っていたかのように体の隅々まで快感が広がっていく。
「は、っ……ぁ、……」
慣れるのを待つことなく、ミノリが浅い場所で揺さぶりを仕掛けてきた。
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