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第五章 さようならへの招待状 7-4

 シーツの上を泳ぐ。熱く蕩けた内壁を何度も擦り上げられ、あまりの気持ちよさにちかちかと視界が瞬く。  律動に呼吸を合わせて、うまく刺激を逃がしたい。そうすればこの時間を長く味わえる。  でも焦らされ続けてきた体は、突き上げられるたびに全てを快楽に変換して、もうどうにもならない。抗えない。駆けるように頂点へと追い立てられていく。 「あ、あっ……ミノリ、俺……っ」  気づいたときには、わけもわからず達していた。  白濁した液体を幾度かに分けて放出して、甘い余韻に秘孔がひくつく。そして出し尽くすと、今度は体の緊張が一気にゆるんだ。  激しく乱れた自分の呼吸を聞くだけのなんともいえない時間を味わい、思わず「ごめん」と口走る。 「なんで謝るの?」  ミノリの顔が見られない。  前に触れることなく果てたことも、それ以前にあまりに早すぎる絶頂もなにもかもが、自分の理解の範疇を超えていた。  どうしてこうなったんだろう。必要に駆られた気がして謝ったものの、そもそも謝罪がこの状況下での「正解」なのかさえわからなかった。 「ねえ、ハル。俺うれしいよ」  こめかみに、やさしいキスが降る。おそるおそる目を向けると、息を呑むほど近くにミノリの顔がある。 「それに俺の方こそごめん。たくさん焦らして」 「え……?」 「今日のハル、ずっと気持ちよさそうだったから。ちょっと狙ってたとこ、ある」 「わざと、だったのか?」 「そう。それに俺たちがここまでいけたの初めてだ。大体俺が中に入れると、ハルはできなくなるから……だからほんと、よかった」  ミノリの笑みに魅せられる。  砂糖水に頭の先まで漬けられたみたいだ。苦しく、甘い中毒性から逃げられない。勢いを失ったはずの性器が再び熱を寄せ集め、鈍くはあるけれど芯を持ち始めるのがわかる。 「も、いいから続けろよ。おまえは、まだ、だし……」 「ハルがそう言うなら、遠慮しない」  押し返そうと伸ばした手を、おもむろに握られた。瞬間勢いよく抱き起こされ、世界が反転する。ベッドに寝そべるミノリに、今度は俺が上からまたがる形だった。 「ここに腰、落として」  目線の行き着く先を追えば、ミノリの硬く反り立ったものが目に留まった。  視線が意図するものを瞬時に察して、溜まった唾をごくんと飲み干す。  ミノリに抱きつきながら先端を自分の臀部に当てがい、体重の力を借りてじわじわと奥に向かって沈めていく。 「動ける?」 「ん」 「ゆっくりでいいから」  膝立ちになり、体をぎこちなくゆすってみる。いっしょにベッドが揺れる。  絶頂を迎えたばかりの敏感な体は、わずかな動きで得られる刺激も余すことなく拾い上げて、また俺は新たな先走りをこぼしていく。 「……上手。ハル、いい子」  徐々に摩擦音が大きくなり、尻から太ももにかけてとろりとローションの垂れ落ちる感覚があった。  上に乗った経験は乏しい。それでもミノリに応えてやりたい一心で、試行錯誤しながら腰を中心に向かって繰り返し落とす。  時折ミノリの切なげな呻き声が混じる。ミノリも俺と同じく感じているのだと思うと、純粋にうれしかった。 「ミノリ……ダメ、だ……」 「なに、どうした、の?」 「……これ以上は……もう……」  動きたくなくて、腹の中で咥えたまま止まる。  自分で速度も当たり具合もコントロールできる分、ミノリより優位に立っていたはずだったのに、また自分のほうが達しそうになっている。  ようやく対等にセックスをできるようになったっていうのに、これではあんまりだ。 「ダメじゃないよ」 「……っあ、……!」  突然ミノリが俺の腰をつかみ、突き上げるような律動を俺に与えた。  反射的に声が出る。せっかくいなしたはずの快楽を取り戻すどころか、何倍にも膨れ上がって俺の体に棲みつき、あまりの気持ちのよさに頭が茹だる。  ミノリの動きに合わせ、従順に、性欲のしもべになって揺れることしかできない。 「好きなだけ気持ちよくなって」 「は、……ン、あっ、ああ……」 「どうせ俺しか見てないし、知らないんだから」  しつこいぐらいに弱いところを狙い撃たれた。律動が速まる。体勢を保つこともできなくなり、ミノリの体の上に折り重なると、すぐに抱きしめてくれる。  汗ばんだ肌と肌が密着して、もたらされた愛しさは俺の感度をよりいっそう高めた。 「気持ちいいね」  耳たぶを焦がすような言葉を最後に、ミノリから余裕が消えた。明らかに射精することを目的にした、愚直な動きになる。熱のこもる襞にひたすらミノリは腰を打ちつけ、俺はただただミノリの体の上で、擦り切れるような摩擦によがる。 「あ、も、……いく……」  迎えた今度の絶頂は、あまりに長い。  ミノリの脇腹をぐっと押し返すようにして、体をびくびくと震わせる。先端から飛び出したものが、ミノリの腹を白く汚していく。  奥深くへと誘い込むように収縮を繰り返すと、やがてミノリも息を詰めた。わずかな硬直の後、ミノリがなまめかしい吐息をこぼしながらゆっくりと俺の中から抜き去った。 「……ハル」  その声はまるで別れを惜しむような、切ない色を孕んでいた。  欲を孕んだ瞳と視線が交わる。ミノリのまぶたがシャッターを切り、翻弄されっぱなしの俺をミノリの瞳に閉じ込める。  やっぱり今日の自分は敏感すぎて、どこかおかしいんだろう。それか大事なネジを飛ばしたか。  射精したばかりで頭もろくに回らないのに、ミノリの気持ちが手に取るようにわかってしまい、まばたきの音が聞こえそうなぐらい顔を近づける。 「なあ、続きは……?」  つぶやいた口で、ミノリの唇を塞いだ。  舌と体を深く絡め合いながら、うつぶせの状態でベッドに寝かされる。 「ミノ、リ……今度は、もっとゆっくり……」 「ん。いいよ。ゆっくり、しよう」  依然として勢いを保ったままの性器が、背後から俺を開いていく。慎重すぎるほどゆるやかな律動は、ほんのわずかのもどかしさと愛しさを一緒に連れてくる。  腹の奥がミノリを欲しがって締めつけるのに、肝心の相手は少しも見えない。  ミノリ。喘ぎまじりに、紡ぐ。  姿を追い求めて無理に振り返ると、性急に唇が塞がれた。  あまりに長いキスがもたらす気持ちよさと苦しさの狭間は、不思議と春の暖かさを思わせる。

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