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第六章 Spring fill in the blank 4-3
「俺と、ハルで?」
「ほかに誰がいるんだよ」
「……いない。というか、いたら嫌だ」
「だろ? それにおまえはさみしがり屋だから。いっしょにいる時間は長いほうがいいだろ?」
いつからか本気で考えていたことだ。
これからもミノリは撮影に没頭し続ける。そして羽ばたいていくミノリへの誇らしさと比例してさみしさは大きくなる一方、俺はミノリのいない時間の空虚さを必死に飼い慣らそうともがくんだ。
でも生涯味わうさみしさなんて、少ない方がいいに決まっている。だったら俺とミノリの残りの人生をどうにか重ね合わせてしまえばいいんじゃないか、と結論づけたのはあまりに短絡的かもしれないけれど。
「ハルの口から将来の話が出てくるなんて思わなかった」
「いや、それっぽいことはおまえも言ってただろ。合鍵とか、同棲の話だって」
「うん、でも……スタジオは、ずるい」
ミノリが咄嗟に顔を背けた。わずかに肩が震えているのがわかり、胸がぐっと締めつけられる。
「ミノリ。顔、見せて」
好きだから、見続けたい。何度も果てて気だるさの残る腕を伸ばし、そっと頬に触れると欲情して潤んだ瞳と視線が交わる。
「なんか、夢みたいだ」
うっとりとした呟き。俺まで夢見心地にさせられる。しかし、俺の手にゆっくりと絡みついてきたミノリの指は痛いぐらいに力がこもっている。
「俺、ハルとずっといっしょにいていいんだ……」
俺のことを心臓だなんだと言ったくせに、いつかいなくなるものだと思われていたらしい。ミノリの諦観っぷりに物悲しさを通り越して、苛立ちが混じる。
散々ミノリを不安にさせてきたくせに、自分勝手なものだった。
でもこの横暴さがまかり通るのもまた、恋だ。
「ずっといっしょにいてくれなきゃ困る」
体を起こし、噛みつくように口づける。
奥に引っ込んでいた舌を不埒に誘って、滑らかな口内の粘膜を舐めつくすうちに、薄いゴムをまとった中心が後ろにあてがわれた。
風呂場で十分ほぐされたものの、ミノリは慎重すぎるほど慎重に腰を進めてくる。
じれったい。でもすぐに思い直す。連日多忙だったせいで久しぶりになってしまった挿入は、腹の中の異物感がいつもより強いように思える。
がっつかれていたら、快感よりも苦しさの方が先に立っていただろう。
抜きあっておいてよかった、と理性の制御不能っぷりを感謝に置き換えたところで、ミノリがぴたりと動きをやめてしまう。
「ミノリ?」
唐突な停止に首をかしげると、ミノリがどこか観念したように苦笑した。
「ごめん。今動くとすぐにイっちゃう気がする」
発情した視線が交わる。
これ以上ないぐらい心臓の位置がわかりやすい。でも自分ではこの速すぎる脈をどうにもできない。自分の肉体を掌握される怖さを麻痺させるために、性欲というやつがあるのかもしれなかった。
「なあ、早く動けよ。抱き潰されてやるから」
「潰せないよ」
「いいんだよ。潰されたぐらいじゃ俺は死なないし、どこまでも喰らいつてやる覚悟も決めた。だからもっとおまえは好き勝手にやっていい」
ミノリはわずかな時間、呆然とした。そうしてなにかをこらえるようにきゅっと目を細めたと思ったら、俺の心臓の真上あたりに痕をつける。
それを合図にして、ミノリは律動を始めた。余裕がないというより、無駄のない動き。腹側の粘膜を先端で的確に擦られ、時折柔なところを正しく突かれて体をくねらせる。
「っあ、あっ……ん……」
硬くつながった部分から、もうずっと淫靡な音が漏れ聞こえてくる。喘ぎっぱなしの声が次第に掠れ行く中で、ミノリが俺の両足を大胆に開く。
挿入がもっと深くなる。濡れた肌が一定の速度でぶつかり合って、そのたびにミノリをいっそう近くに感じる。いつも傍にいるのに変な感じだ。
でもこれだけはわかる。写真を撮るだけではたどり着けないところに、俺たちは今、触れ合っている。
「むり……い、きそ……」
「……うん」
「おまえ、は……?」
「好き勝手していい、っていうから……ハルを先にいかせたくて、我慢してた」
ああもう、とミノリの首にしがみつく。
いっしょにいきたいと望んだり、今度は俺を優先したり。いじらしい。たまらない。好きで好きで、どうしようもない。
視界が白む。快感が奥底から押し上げられ、ミノリから施されたキスが蓋をこじ開けるためのトリガーになって達してしまった。
鈴口から体液が飛び出すのと同時に、ミノリのものを幾度も締めつけると、切羽詰まったうめきが降ってくる。
「ハル、俺も……」
出した白濁を互いの腹に塗り込むように、ミノリの動きはまだ続いている。
果てたばかりでひどく敏感な場所に腰をぐいぐいと押しつけられ、気持ちいいのか苦しいのかもうわからない。溶けた声だけが口から勝手に飛び出していく。
勢いが余ったのか、最後の最後で後ろからミノリの性器が抜けてしまい、俺の下腹部を擦るようにしてミノリは熱を出し切った。
青臭いミノリの姿はなんだか新鮮だ。やってしまった、と後悔を刻んだ眉間を眺めていたら、視界を手のひらでおもむろに覆われた。
「ごめん、見ないで」
「なんでだよ」
「好きな人の前では格好つけたいんだよ。ハルに見つめられるのはすげえ好きなのに……でもやっぱり格好悪いところは見てほしくないんだけど」
「……あ。今の顔、シャッターチャンス」
するとたちまち憤ったミノリに「今だけはカメラのこと忘れてよ」とまた深く快楽の海へと沈められてしまうのだった。
*
数日後、ミノリのもとにあるフォトコンテスト受賞の知らせが届く。
「かけがえのないもの」をテーマにした、街おこしを兼ねる地方の小さなフォトコンテストだった。
優秀賞に選ばれたのだという。
受賞したその写真の中には、施設の中の窓べりで読書をするミノリの祖母がいた。
彼女が手に持つ絵本は、子どものころにたくさん読み聞かせてもらった、雨上がりを待つ少年の物語なのだと、やがてミノリは照れくさそうに教えてくれた。
俺の部屋の一角では『UTSUGI.M』の残したあの水たまりの写真の隣が、ミノリの祖母の写真を飾るスペースになった。いつまでも。
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