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夢一夜
汀の方も、やはり湯船で考える。
またやらかした…なんなんだろうか、心配は確かにしていたがそれがなんの心配なんだ。
遥翔も男だし、女の子と遊びに行ったら普通心配するのは女の子の方だろう。
遥翔だから安心して送り出したけど、考えてみれば初めて会った男を女の子に任せるのってどうなんだ?とも思う。
それでなんで遥翔の心配を…
汀はバシャンと頭を湯船に突っ込んだ。やることが似ているがこっちは少し豪快だ。
そして顔を上げて犬みたいにフルフルする。
「あ〜わかんね!」
キスしてしまった事もあるからそれがより汀を追い詰めるのだろうが、あれは事故だ。
友達が持ってきたエロ本の唇に似てたから興味をそそられただけだ。
そう思うと興味で実害を被った遥翔には申し訳ないななどと言う気持ちも湧くが…。
何時もお風呂で動画を見ている汀は、湯船の向こうの小さな窓辺に置いたスマホが鳴ったのに気づく。
「あ…はる君だ」
タオルで手を拭いて開くと、さっき見せてもらった寄り目のタコ唇が加工されてドアップで出てきた。
「うっわっ」
一気に眉を顰めていると、ポコっとメッセージが来た。
遥翔[さっきはごめん。なんかちょっと言いすぎた。人様の恋愛に口出すのいくない。ごめん。]
土下座のスタンプまで貼り付けて向こうが謝ってきた。
こう冷静になれば、お互い許し合えるのに、なんでか面と向かうと湧き立ってしまう。
汀[俺も悪かったよ、ごめん。うちのがっこの女子構ってくれてサンキューな。そ
れと添付の画像、おもろいけど思ってるより酷い顔だぞ。他の人には見せないほうがいい]
そんなメッセージをもらって、布団の中の遥翔は小さく声を出して笑ってしまった。
遥翔[酷い顔ってひどいな(笑)わかった、汀にしか見せないことにするよ。彼女たちも持ってるから、口止めしといて]
汀[LIME交換しなかったん?]
遥翔[初対面の女の子にそれ言ったら流石にやばい(笑)向こうも聞いてこなかったからそう言うことでしょ]
なんかそんな言葉にモヤモヤが一個消える汀だ。
汀[意外と紳士だった(笑)]
遥翔[意外とは余計。失礼な(笑)]
汀[明日俺ともプリ撮ろうぜ]
遥翔[おお、いいね。変な顔更新しよう]
汀[人様にお見せできないの撮るか(笑)]
遥翔[笑笑 チャレンジ!]
こんな会話が楽しかった。
汀[なんかクラクラしてきた]
遥翔[え?だいじょぶ?何してんの今]
汀[風呂入ってた]
遥翔[とっとと上がって水分摂れ。バカもの]
汀[バカものって(笑) じゃそうする。明日11時頃迎え行くな。ハイゼって聞いたら食いたくなったから、ハイゼ行こう]
遥翔[うん、わかった。じゃ早く出て水分摂りなね。おやすみ]
汀[うい]
全く世話が焼けるな、と布団の中でお兄さん風に満足な顔で笑う。
「明日楽しみだな」
小さい頃と違って、川や遊園地と言う場所ではなくなった遊び場。
「成長してんだな俺たちって」
そう呟いてまた笑い、目を瞑る。
まだ10時頃だったが、今日は結構歩いて疲れたのもあり遥翔はすぐに眠りについた。
今日見る夢はいい夢だろう。
「聞いてよ昨日の夢。もう最悪だったんだよ」
朝11時に迎えに来た汀を迎えた遥翔の第一声はこんなだった。
「なに?夢?」
靴を履いている遥翔を見ながら、内容を聞き出してみる。
「そう夢。おばあちゃん行ってきます。晩御飯はまた連絡するね。もうほんと起きた時泣きそうだった」
「はい、いってらっしゃい。みーくんもいってらっしゃい」
「行ってきます」
キャップを少し上げて挨拶して、2人は引き戸の玄関を出た。
「どんな夢?」
バス停までは15分。その間に聞き出して、今日1日で忘れてもらおう作戦。
「おばあちゃんちで俺昼寝してたんよ、夢ん中で」
夢の中でも寝てるんだ、と茶々を入れてみるが本人はそれ以上に話がしたいらしい。
「そう、俺どこでも寝ちゃうからさあ。でね、寝てたらさ顔が痒いんだよ。なんかこそばゆいわけ」
そこまで行ってーああ〜夢でも思い出したくないーとゲンナリして、それでも頑張って話そうとしてくれる。
「で、手で擦るじゃん、夢の中でだよ?こう手で痒いところポリポリって掻いたらさ、手にGが…あああああ!Gが這ってきて…」
それ以上でも以下でもない、終わり。とちょっとぐったりしてトボトボと遥翔は歩く。
「夢で良かったよ〜。あれが現実だったら、俺失神するわ」
顔をゴシゴシ擦って、ああ〜〜いやだと自分を抱きしめる。
「それは災難な夢だなあ…俺でも泣くかも」
「だろ?でもさ、それで嫌なこと思い出しちゃったんだよ」
ブルっと体を震わせて、情けない顔で話を続けるのを聞いていると、
「夢ってさ、結構現実でその時起こってることが速攻夢になったりするって言う話知ってる?」
「どう言うこと?」
「俺が聞いたのは、なんか金属の板みたいなのを、寝てる人の首に当てるとその板を当てられた人はその場で首にナイフを当てられてるとかそう言う感じの夢を見るらしいんだ…だとするとさ…俺の顔に…現実に何かが這っていたかもって思うとさ!」
ーあああ気持ちわる気持ちわるー
顔じゅうを擦って奇声を呟く遥翔の話を聞いて、汀は少し固まりかけた。
ー現実に怒ってることが即座に夢に…?ー
寝ている遥翔にキスをした時、もしかしたら遥翔その時になんか夢でも見たかもしれない…?
でもそんなこと聞けないし、もう一年半も前の夢なんて覚えてないだろうなと、思ってはみるが、多少気分はざわついた。
「夢って不思議だよね…まあ俺の顔を何かが這っていなかったことは祈っておいて…」
と、遥翔がちょっとしんなりしてしまった所でバス停に到着。
「ええっと…バスは23分か…あと8分くらい。大抵遅れるから大体あと12、3分てとこかな」
バス停の、棒が2本並行している椅子のようなそうでないようなものに座って、スマホの時間を確認した後汀はズボンのポケットにスマホをしまった。
今日の汀は、スエット地のハイネックにシャツを羽織り、今日はジャージではなくちゃんと綿パンを履いていた。
「こっちのバス事情はそう言う感じなんだね。俺んとこだとそんなに待たなくても来る感じだから新鮮だ」
遥翔は、やはりこっちは少し寒いのか薄手のニットのセーターに薄手のブルゾンを着てそれを喉元まで上げている。
「人口を考えて…特にこの辺は田舎の部類だし」
銀色の棒二本の椅子に座ればと促して、少し奥にズレる。
「まず食事にする?」
隣に座った遥翔が、ーまだ少し早いかなーとスマホで時間を確認した。
「いや、混む前に行っとこう。待たない方がいいじゃん。それに俺ギリギリまで寝てたから腹減ってるし」
「相変わらず朝弱いね」
小2と小1で離れたので、そんな癖がわかったのも前回来た時だ。
前回、遥翔が中2の夏休みに6年ぶりに来たときは、実際あんなに小さい頃に戻れるとは思っていなかった。
幼馴染とはいえ小さい頃だけだったし、随分その頃とは自分も汀も変わっただろうから、昔みたいに屈託なく遊べるとは考えていなかったのだが、汀も笙子も時間を超えて来てくれたおかげで、まだ祖父母の家が第2の自分の家だと思わせてくれた。
それは本当に感謝している。(まあ汀は、最初人見知り発動はしてくれたけど)
「あ〜、俺ももう受験の学年になったなあ。いいなはる君は終わって」
「俺の一年の努力話して聞かせようか?」
簡単に終わっていいなって言うな?という気配を含めてにっこり笑ってやる。
「いえ、結構です…」
流石に空気は読めたらしかった。
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