12 / 19

事故チュー!?

「はあ、お腹いっぱい」  ハンバーグセットを食べていた遥翔は、途中汀からこれ食べな、と色々鉄板に乗せられて、今までで一番食べた気がしていた。 「俺はふつー。まだ入るな」  自分だってよく食べると言われてはいるが、スポーツ中学生はレベチだ。高校に行ったらきっともっと食べるんだろうな。  と、それを想像して遥翔はおかしくなった。  ゲーセンに着くと、最初はプリだけと思っていたがバスケのシュートゲーム等のスポーツ系のもあったりで、2人してギャーギャー言いながら色々遊び、クレーンゲームでは思わず抱えるほどのぬいぐるみ(ちいかわ)をゲットしてしまい、持て余すことになったりして苦笑したり思わず楽しんでしまった。 「女子と来るとこう言うわけにいかないから、男同士も結構楽しいよね」  でかいぬいを抱っこして、暑くなったからアイス食べようとフロアの片隅を指差す遥翔に、汀はちょっとドキッとする。  みるからに女子にも見えないし結構肩幅も広い遥翔だけど、ぬい抱えてアイス食べようは卑怯だなんて考えている。 「子供か?」  照れてつい出たそんな言葉だったが、中学生に言われて流石にカチンときたのか、 「食べないならいいんだよ別に。本当に子供は意地っ張りだな」  持ってろ、とぬいを押し付けて1人でアイスを買いに向かう遥翔に 「ごめん!俺も食う」  ぬいを抱えて汀も後を追った。  店の前のベンチに座り、しばし休憩することにする。 「バスケのゲーム白熱したね」 「遥翔が意外と上手いから、俺燃えたわ」  ぬいは1人で椅子に座れるほどでかくて、遥翔と汀の間で一丁前に座っている。 「俺ね、なんでかシュートだけ上手いんよ。体育の時便利に使われたよ」 「便利屋ね、そう言う人いるいる」  昼が終わったゲームセンターは結構賑わっていて、アイス売り場もたまたまベンチが空いていたが、後二つのベンチももう埋まっている。  そんな光景を見て早々にアイスを平らげて、 「プリ行こうか」  ぬいを抱き上げて、遥翔が先行する。 「どんな変顔見せてくれるかな〜」 「やるからには、アレを超えてみせるぜ」  アレ呼ばわりかよ、と軽く蹴り飛ばしてプリクラの場所へ行くが、やはりというか日曜と言うこともあって女子がいっぱい。 「うわ…男2人で順番待ちしんどいな…」  汀がちょっと引き気味にいうが、 「俺らなんて、写りとかデコなんて気にしないんだからさ、一番空いてるとこ一択だよ〜」  汀は女子がいっぱいの中に入ること自体に躊躇していたのだが、遥翔はスイスイとその中へ入ってゆき、奥の方のあまり人気のなさそうな台へと向かった。  案の定ひと組が中にいて、待ってる人もいない台が一個ある。 「女子たちは、可愛く映る方へ行っちゃうからね〜。これは『本来』の自分映っちゃう古いタイプなんだって。昨日教わった」  ぬいを抱えて遥翔は汀を見上げた。 「|横山と相澤《あいつら》使えるな」  さりげに順番を待ちながら、2人の顔を思い浮かべる。 「色々教わったよ〜面白かった、女子の生態」 「生態?」  柔和な遥翔に気を許したのか、割と深いところまで女子ってこうなんだよね〜を聞かされたらしい。 「俺たった今なら、JC専門家だよ」  笑ってぬいを抱きしめ、また見上げて笑ってきた。  さっきからなんだ?ーずるいんだってばー見上げてくる顔を一応受け止めるが、それを受け流すスキルは、汀にはまだない。  『ずるい』しか浮かばずに、しかもなぜずるいと思ってしまうのかも理解ができなかった。 「お、空いたよ。撮ろ」  腕を掴まれて中へ入る瞬間に、出てきた女子高生が二度見したのを確認したのは汀である。 ーやっぱ変かなーと思うがもう遅い。 「300円だって!ここ安いね。デコれたり顔変わっちゃうほど可愛く撮れるとこ500円とこもあったよ。ラッキー」  遥翔は300円入れて、片隅の小さな鏡で髪を整えた。 「あ〜、でもここ背が…」  2人でカメラの前に立つが、カメラ画面に写っているのは遥翔の顎から下と、汀に至っては喉仏から下だ。 「屈まないとだめかな。屈みながら変顔できる?」  遥翔が変な心配をしてくる。それの関連性はなくね?と応えて、汀は後ろの隅にあった小さなプラスチックの台を見つけた。 「これって小さい子が乗る台かな。俺これに膝ついてみるか」  お風呂の椅子がちょっと大きくなったような感じなので、両膝が乗るようだ。 「あ、いいねそれ。じゃあ俺は軽く屈めばいいか。どんな顔する?」  しかし時間はそんなに貰えるなかった。  2人で高さでごちゃごちゃしている間に、一枚撮られてしまった。 「あ!やば!今どんなの撮られた?ちゃんとほら」  汀の肩を引いて、真ん中にぬい。カメラを見て 「変顔しよう〜〜」  3、2、1   汀が前歯を出して黒目を精一杯上に、遥翔は寄り目でひよこ口。  一旦写った撮影写真で大笑いする2人 「ひでえ〜〜最悪」  もっと行こう〜と言うことで次々撮るが 「こんな傑作ばかりだと選べないよ〜」  笑って涙が出ている遥翔は、次最後かな〜決定的なの撮らないとね」  意気込んでぬいを抱きしめようとした瞬間、汀が膝をついている椅子に躓き 「わっ」  と声をあげている間に汀に倒れ込み、それを受け止めようとした汀が遥翔の肩を抱きしめるようになってそのまま自然と唇が重なってしまった。  驚いてそのまま数秒見つめ合ううちに、無慈悲にもシャッター音が。 「「え!」」  2人で唇を押さえて、驚くのはもちろんシャッター音なんかではなくて…。  気まずい空気の中、とりあえず汀は抱えた遥翔の体勢を整えさせて、どうしようか考えた挙句 「わ…うわぁ…超事故じゃね?」  と、いうついでにーにゃははーと愛想笑いのように笑ってみせ、遥翔は顔を真っ赤にしたまま少し俯いてしまった。 ーえ〜え〜みーくんとキス?キスしちゃったの?俺?どうしよう。どうしようー  動揺が隠せず顔がもう上げられない遥翔を見て 「え…はる君もしかしてファーストキ…いてぇっ」  年下に初めてなんて言えるわけもなく 「そんなわけないだろ!したことあるよ!」  夢で…とは言わずに、汀の頬をぎゅうっとつまむ。 「はひ…ほめんひゃはい…」  顔を上げるきっかけを作ってくれた汀に感謝しつつ、ふざけた目で摘み続ける。 「みーくんは初めてじゃないの?」  ほっぺを掴まれたまま、目を泳がせて汀は頷いた。  まさか初めてははる君だよとは言えない。 「もう…最近の中学生は早熟だな!」  遥翔とて、3月いっぱいまでは中学生だろうに。  しかし遥翔は本当に解ってしまった。  昨夜お風呂で『弟が他の人に面倒見てもらって云々』で誤魔化した気持ちはここで大爆発を起こしてしまったのだ。  キスが嬉しかった。事故でも嬉しいと思ってしまった。そして  汀が好きだと確信をしてしまった。  動揺で頬はつねったものの気持ちの持って行き場がない。 「はる君だってまだ中学生だろー。なんだよ」  汀は汀で、やはり少し動揺はしているようだが、ここで取り乱すとよく話からに気持ちがわからないままに噴出しそうな気がして、ことさら冷静にしようとしている、ように見えた。 「ま…まあ、事故だよ、さっきも言ったけど事故事故。これが本当の事故チューってやつだな」  それには遥翔も吹き出す。 「事故チューってあはは、もう!そうだよね、事故事故。あ〜でもみーくんのファーストキスじゃないの残念〜〜」  笑ったついでにそんな冗談も言ってみるが、汀にしたら寝込みを襲って自身のファーストキスは遥翔にあげているから、冗談では済まないのだ。  しかしそれはここで言えないから 「俺も俺も〜。なんだよ。俺のためにとっておけよ」  これまた冗談めかして言って、2人で笑いあい、この場はなんとか収拾をつけた。  それぞれの心に、様々な思惑を載せて。 「所でこんな画面でてるけど」   汀に言われてプリクラの画面を見ると、4枚選んでください。と、あった。  古い機体はそこで選んだものが出力されるらしく、デコも何もない。 「本当に人に見せられないの撮っちゃったけど…これ…消す?」  画面に8枚ほどの画像が表示されているが、その中の一枚がやはり目を開けてびっくりした顔でキスしているやつだった。  遥翔としては絶対に消したくない…のだが、どう言ったら良いのかなと考えてしまう。 「まあ…さ。人に見せられないもの撮りに来たんだから…これも取っておく?」  汀の意見だが、確かに今日は、人に言えない顔を撮りに来たはずだ。だからこれも残していい…はず…? 「ん、そうだねえ…そう言う意味では良いの撮れたね」  遥翔は笑う顔が不自然ではないか気になってしまう。 「じゃあ…これと…これ、とこのキモい顔も取っておこう。これ誰にも見せられないな、マジで」  笑いながら画像を選択してゆく意外と冷静な汀を見て、遥翔は自分の気持ちは知られたらいけないと誓った。  なんでもないことだと思えるんだね、汀は。だから絶対にバレたらダメだ…と思う。 「この真ん中の、めっちゃひどい」  なんとか自然に一枚選べて、2人はブースの外で印刷を待った。  画像が出てくる場所の前に立って、万が一にも通りすがりの人に見られないようにその場所を塞ぐ。  遥翔が黙っているから汀も黙っていた。変な空気だな…とお互い思うが、それはどうしようもなかった。  画像がトトンと出てきて、シートは2枚ある。 「一枚ずつ持てるね、よかった。この最後の1枚、シート1枚だったらどっちが持ってれば良いのかって思ってたからさ」  なんだか大事そうにシートを胸に抱えている遥翔をちいかわを抱えた汀は上から眺め、いい意味で複雑な思いを抱えていた。

ともだちにシェアしよう!