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番外編 手紙の返事
夜明け前、見張り交代の合間だった。
「副団長殿。王都から返書です」
その一言で疲労が瞬く間に消え、剣を置く手がわずかに早まる。封蝋は、少し歪んでいた。
(――真琴、急いで書いたな)
嫌な予感と、期待が同時に胸を刺す。
『リオンへ
お手紙、ありがとう。
読んで……ちょっと、びっくりしました。
誰かに声をかけられたくらいで、
そんなに心配されているとは思わなくて。
でも……嬉しかったです。
重いなって思う前に、
“大切にされてる”って感じました。
安心してね。
僕はちゃんと帰る場所を知っています。
それは、リオンのところです。
だから、ちゃんと無事に帰ってきてください。
約束です。
……抱きしめるの、絶対に逃げません。
真琴』
……卑怯だ、最後の一文。絶対に逃げない、と書かれてしまった。喉がひくりと鳴り、視界が一瞬だけ滲んだ。
「……真琴」
名前を呼ぶ。
――帰る場所は私のところ。これ以上、何が必要だ。
手紙を胸当ての内側に収める。心臓のすぐ上。そこが一番安全だ。
そして同時に、角笛が鳴った。
「敵影確認!!」
やっと来た、任務最終局面! 山道を抜けた先、谷間に広がる敵陣。数は多いが問題は、ここで終わらせることだ。
「副団長殿、指示を!」
私は剣を抜いた。刃が朝日に反射し、澄んだ音を立てる。
「前衛は私が切り開く。後衛は合図まで動くな」
「了解!」
手網を握りしめ、馬と一緒に駆け出す。蹄が地を蹴る音を聞くたび、思考が研ぎ澄まされていく。
敵が見える。剣が振られる。
――遅い。
一閃。迷いはない。感情はあるが、それが刃を鈍らせることはない。むしろ逆だ。
「……帰るんだ」
呟きながら、次の敵へ。片手で馬を操りながら、繰り出される敵の刃を全て一瞬で薙ぎ払った。
「待っている人がいる」
刃が、正確に急所を穿つ。無駄な動きは一切ない。
敵将が、後方で指示を出しているのが見えた。
「副団長殿、あれが――!」
「分かっている」
一気に距離を詰める。途中、肩をかすめる矢。構わない。
――真琴なら、きっと言う。
無理しないで。
だが、私は騎士だ。無事に帰るために、今は無理をする。
敵将が剣を構える。
「王国の犬が……!」
言葉は聞こえない。聞く必要もない。一気に踏み込み、間合いに入る。その瞬間、胸の内側が熱くなった。
――手紙。帰る場所は、私のところ。
「……真琴」
名前を呼ぶ次の瞬間、一撃。剣が交わる前に、勝負は決していた。敵将が崩れ落ち、周囲がざわめく。
「敵将、討ち取った!!」
歓声が上がるが、私は剣を収めながら静かに息を整えた。
――終わった。あとは、帰るだけだ。
胸当ての内側に、そっと手を当てる。
「……待っていろ」
声に、迷いはない。
私は王国最強騎士で、一人の男として帰る。真琴のもとへ。
***
朝から胸の奥が落ち着かなかった。理由は分かっている。今日、リオンが戻る。ただそれだけで、仕事の手元が何度も止まった。包丁を持つ手が少し危なっかしくなって、店番をしている団員に心配された。
「真琴殿、大丈夫ですか?」
「……はい。たぶん」
本当は、全然大丈夫じゃない。無事だと分かっている。勝ったとも聞いている。それでも扉の向こうから足音がすると、不意に心臓が跳ねる。
昼前、扉がゆっくり開いた。最初に見えたのは、白銀の鎧。その次に、覚えのある背中。
「あ……リオン?」
声に出した瞬間、視界が揺れた。振り返った彼と目が合う。
その瞬間、距離が消えた。抱きしめられる。容赦がない。強くて、逃げ道がなくて、でも……震えていた。
「……っ、リオン?」
「声を聞くまで、帰ってきた気がしなかった」
低い声で耳元で囁かれて、ぞくっとする。
重い。自覚している重さ。でも腕の力が、ほんの少しだけ緩む。
「怪我、してる?」
「軽いものだ。後で治癒魔法をかける」
リオンは即答したけど、これは誤魔化し方を知っている人の返事だって、すぐに分かった。
腕をすり抜けて、じっと顔を見る。
「……嘘」
「……」
黙った。その沈黙で、全部分かる。
「見せて」
「真琴」
「見せて」
短く言うと、彼は観念したように息を吐いた。鎧を外すと表れた包帯。赤い滲みが目に痛々しい。
胸が、きゅっと縮む。
「……無事に帰るって、約束したのに」
「約束は守った」
「怪我してる」
「生きている」
真剣な蒼い目。その奥に、はっきりとした感情がある――帰る場所。僕の言葉を、そのまま信じたリオンの真摯な眼差し。
「……ねえ、リオン」
包帯にそっと触れる。
「僕、リオンが思ってるより、ずっとここにいるよ」
包帯に触れた指が止まった刹那、呼吸が重なる。
「逃げないって、書いたでしょ」
その瞬間、また抱きしめられた。今度は、さっきよりも慎重で、でも……離す気がない。
「……それが、どれだけ残酷か分かっているか」
耳元で、低く呟く。
「帰る場所だと、言われたんだ」
声が、少しだけ揺れている。
「……手放す理由が、なくなった」
ああ、これだ。この人、本当に重い。そして――。
「リオン……かわいい」
つい、口に出た。固まるリオン。
「……今、何と言った」
「重いし、独占欲すごいし、騎士様なのに不器用で……」
言葉を選ぶ前に、続けてしまう。
「でも、かわいい」
「……真琴」
額に、額が触れる。
「それ以上言うな」
「どうして?」
「――自覚している」
低く、真剣な声。
「重いと知っていて、抑える気がない」
近い。逃げられない。
「それでもいいと言ったのは、君じゃないか」
胸が、熱くなる。確かに逃げないって言ったのは、僕自身だ。
「……うん」
小さく頷く。すると、リオンの目が、ほんの少し柔らいだ。
「なら、二度と離さない」
断言。脅しでも冗談でもない。真剣すぎて笑ってしまった。
「ねえ、リオン」
「何だ」
「帰ってきてくれて、ありがとう」
その一言でこの人は、また少し重くなるんだろうな。でも――それが嫌じゃない。
***
「……リオン、寂しかったよ」
真琴の体が私の胸にぴたりと寄り添い、任務中の不安を一瞬で溶かしていく。手が自然に彼の背中を撫で、腰へ滑り落ちる。
布地越しに感じる熱が、抑えていた欲求を呼び起こす。私は彼の顎を優しく持ち上げ、唇を重ねた。優しいキスから始まり、すぐに深く舌を絡めて貪るように。
真琴の甘い吐息が漏れ、唇が震えるのを感じて興奮が募る。
抱き合ったままベッドへ移動し、真琴を優しく押し倒す。服を一枚ずつ脱がし、露わになる肌に唇を這わせる。首筋から胸板へ、腹筋をなぞりながら下へ。
真琴の体がびくりと反応し、息が荒くなる。
「リオン……あっ……」
彼の声が甘く響く。私は彼の腰を引き寄せ、硬く張りつめたものを指で優しく包む。ゆっくりと上下に扱き、頂部に舌を這わせる。丁寧に、離れていた時間を埋めるように。
真琴の腰が浮き上がり、指が私の髪を掴む。
「んっ……リオン、そこ……気持ちいい……」
口に含み、舌で優しく巻きつける。ゆっくりと深く咥え、吸い上げるように動かす。真琴の体が震え、喘ぎが大きくなっていく。
「んんっ…っぁ! もっとして……っは」
手が彼の内腿を撫で、敏感な部分を刺激しながら口の動きを速める。熱い液体が先走り、口内に広がる味が欲求をさらに煽る。
「あっ……リオン、ダメ……イく!」
真琴の体が弓のようにしなり、声を上げて達する。熱い迸りが口内に溢れ、私はそれをすべて受け止める。余韻に震える彼の体を抱きしめ、唇を拭いながら上へ移動する。
今度は私が彼の上に覆い被さり、真琴の手が私の硬くなったものを握る。彼の指が優しく扱き、唇が首筋に触れる。互いの熱が重なり、腰を擦り合わせるように動く。
真琴の息が私の耳にかかり、優しく囁く。
「リオンと一緒に……気持ちよくなりたい……」
その言葉に煽られ、私は彼の秘部にローションを塗り、ゆっくりと挿り込む。熱く濡れたそこが私を迎え入れ、動きを始めると部屋に甘い音が響く。
「んっ…は…ぁっ……あっ…ああん!」
激しく腰を振る中、真琴の体が再び反応し互いの絶頂が近づく。
「あ……っは…ぁ、ンン…っも…だめっ! いきそっ!」
私は低く唸り、最後のひと突きで頂点に達する。すべてを彼の中に注ぎ込み、息を荒げて抱き合う。
離れていた間を埋め、互いの存在を確かめ合う。この温もりを、二度と手放さない。
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