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番外編 各国からの贈答品
翌朝、目を覚ました瞬間、違和感があった。
「……重い」
腰に腕。というか、完全に抱き枕扱いされている。
「……リオン、起きて」
「起きている」
「じゃあ離れて……」
「無理だ」
即答した直後、蒼い瞳を細めたリオンが不敵に微笑んで言葉を続ける。
「昨日、公の場で既婚者宣言をした」
「うん……」
「その後、真琴が隣にいることを再確認する必要がある」
「なんなのそれ、理由が重い!」
そのとき。
――ドンドンドン!!
扉が激しく叩かれた。その様子はまるで、これから悪いことでも起こるような雰囲気で。
「副団長殿!! 至急!!」
リオンが、ようやく体を起こす。僕もそれに倣ってのっそり起きたものの、太い二の腕がしっかり腰に回っていた。
「どうした」
「……あの……その……」
扉越しの声が、明らかに引きつっている。
「各国からの……贈答品が……」
「贈答品?」
昨日の今日である。どうにも嫌な予感がした。
「……どれくらい?」
「……廊下が……ほぼ埋まりました」
「埋まりました⁉」
ふたりで顔を見合わせて驚き、慌てて身支度をして扉を開けた瞬間――見えた。
箱の山――宝石箱・木箱・金属箱。しかもでかいものが多数!
「……なにこれ」
扉をノックしたであろう団員が、青い顔で説明する。
「ええと……“副団長殿の伴侶・真琴殿へ”という名目で……」
「伴侶って書いたの誰?」
「……全員です……」
箱の札を見て、僕は言葉を失った。
『東方連合より、永遠の祝福を』
『北海王国より、護符と宝飾一式』
『南方諸国より、夫婦円満の香油』
『敵国(元)より、心からの謝罪と絹織物』
「え……敵国まで?」
リオンが、満足そうに頷く。
「よし」
「よしじゃない!!」
「世界に真琴が私の伴侶だと、伝わった証拠だ」
「これ、伝わりすぎだよ!!」
団長が、廊下の向こうから現れた。目が死んでいる。
「……副団長」
「なんだ」
「各国から“伴侶殿の好み”についての問い合わせが来ている」
「答えは一つだ」
「嫌な予感しかしない」
リオンは、一切迷わず言った。
「私だ」
「……は?」
「真琴の好みは、私だ」
「質問の意味が違う!!」
王様まで出てきた。
「……真琴殿」
「は、はい……」
「これはもう……外交案件だ」
「えっ」
「贈答品の受領、返礼、お礼状……」
げんなりした表情の王様の手が、僕の肩にそっと置かれる。
「国を挙げて対応する」
「……僕、ただの菓子職人なんですけど……」
リオンが、当然のように言う。
「私の伴侶だ」
団長が、白目で言った。
「それが一番の問題だ……」
僕は廊下いっぱいの箱を見て、ようやく自覚した。
――ああ。僕は今、王国最強騎士の“伴侶”として、世界に認識されているんだなって。
「……ねえ、リオン」
「なんだ」
「昨日の既婚者宣言……ちょっと、やりすぎじゃなかった?」
リオンは、少し考えてから答えた。
「足りなかったか?」
「足りてる!! 十分すぎる!!」
その手が、また自然に絡んでくる。
「安心しろ」
「なにが?」
「贈答品は、すべて私が守る」
「……そういう意味じゃないってば」
でもその横顔は、とても誇らしそうだった。
――世界が敵でも、この人は味方でいてくれる……しかも重い。でもちょっとだけ、嬉しかった。
***
――結果から言うと、世界は本気で僕を守る気だったみたい。
「……ねえ、リオン」
「なんだ」
「これ……全部……僕宛て?」
「当然だ」
「“当然”の基準が怖い……」
王宮の一室。長机いっぱいに並べられた箱、箱、箱。
団長は壁際で腕を組み、もう諦めた顔をしている。
「では開封を始めるぞ……内容によっては検閲対象だ……」
「中身で検閲?」
最初の箱。北海王国の紋章。ぱかっと開いた瞬間――。
「……え」
銀色の外套。触れただけで、ひんやりと魔力が走る。
「これは防刃・防魔・防呪三重構造のマントだな」
リオンが即解説した。
「真琴、寒がりだから」
「寒がり情報、どこから漏れたの?」
団長が呻く。
「生活情報まで把握されている伴侶って、いったい……」
次、南方諸国の箱。中身は――瓶、瓶、瓶。
「これは……香油?」
「“伴侶の精神安定用”だそうだ」
「誰の精神を想定してるの?」
リオンが、一本手に取って匂いを嗅ぐ。
「……落ち着く」
「もう効いてる!」
団長が呆れた顔で言い放った。
「いろんな意味で危なすぎる。副団長の使用制限を設けろ!!」
次、東方連合。重い箱。中から出てきたのは――。
「……え、鈴?」
小さな金の鈴。
「危険を察知すると鳴る護符だな」
「どういう仕組み?」
「真琴が怯えたら鳴る」
「僕基準!」
団員がぽつりと呟いた。
「……副団長殿、それ常時鳴りません?」
「鳴ったら、真琴を怯えさせたものを全力で排除する」
「用途が怖い!!」
次――元・敵国からの贈答品。全員、少し緊張する。恐るおそる箱を開けると。
「……布?」
生地が柔らかそうな、見るからに上質な服。そして添えられた手紙。
『この服は、剣を向けられても引き裂けぬ強度です』
「なにそれ!!」
リオンが、真顔で頷いた。
「理にかなっている」
「かなってない!!」
最後の箱。どこの国か分からない無記名。恐々と開けた瞬間。
「…………」
中にあったのは、分厚い書類の束。タイトル《副団長リオン殿・過剰行動時の対処マニュアル(真琴殿用)》
「これ……誰が作ったの?」
団長が、そっと目を逸らした。
「我々だ……」
「国を挙げて何してるの?」
リオンが、不満そうに言う。
「私は過剰ではない」
「“過剰”って書いてあるよ!!」
そのときリオンが、静かに僕の手を取った。
「だが、安心した」
「え?」
「世界が、君を奪う気がないと分かった」
「奪う前提なんだ……」
「当然だ」
リオンの指が執拗に僕の指に絡む。
「だが――」
少しだけ、声が低くなる。
「奪おうとしたら、全員私の敵になる」
「重い!!」
でも贈答品の山を見て、僕は苦笑した。
「……ねえ、リオン」
「なんだ」
「これ、全部“あなたの伴侶”って前提で選ばれてるんだよ」
「誇らしいな」
「そこは照れて!」
リオンは、少しだけ口元を緩めて言った。
「守られているな、真琴」
「……うん」
国に。世界に。そして何より――この人に。
……重い。でも贈答品より僕の肩に回された腕のほうが重いのは、きっと気のせいじゃない。
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