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番外編 見たら終わり案件(大騒ぎ)2

***  騎士団宿舎で過ごす夜。私は、静かに扉を閉めた。部屋の中、真琴はソファに座って本を読んでいる。 「……団員たち、今日は妙に視線が優しかったね」 「そうか」  私は上着を脱ぎ、彼の前に立つ。 「真琴」 「なに?」  私は膝をつき、視線を合わせた。 「部下たちに、私は“丸くなった”と思われているらしい」 「……え?」  真琴が瞬きをする。 「よかったじゃない?」 「よくない」  即答しながら私は彼の手を取り、指先に口づける。 「私は、何一つ変わっていない」 「……リオン?」 「いや、正確には――」  少し、声を落とす。 「変わったのは、我慢をやめたことだけだ」  真琴が、息を詰めた。 「ちょ、ちょっと……?」 「安心しろ。逃がさないだけだ」 「それ安心じゃ――」  私は彼を引き寄せ、抱きしめる。強くはない。だが、完全に包む。 「……団員たちは勘違いしている」 「なにを?」 「優しくなった、と」  私は、耳元で囁いた。 「違う。必要なくなっただけだ」 「なにが……?」 「抑制が」  真琴の身体が、ぴくりと跳ねる。 「昼も夜も、私は君の夫だ」 「……っ」 「隠す理由がない」  静かに、しかし確実に私は彼の腰に手を回し、絶対に離さない。その瞬間、真琴の体温が私の胸に染み渡る。甘い息が耳にかかり、抑えていた欲求が静かに目覚める。  私は彼の顎を優しく持ち上げ、唇を重ねた。優しいキスから始め、ゆっくりと深く舌が絡み合い、互いの味を確かめ合うようにくちづけを交わした。真琴の息が漏れ、唇が震えるのを感じて、心が甘く溶ける。 「ぁん……リオン……」  彼の声が、甘く響く。私の手が背中から腰へ滑り、布地越しに引き締まった曲線をなぞる。真琴の体がびくりと反応し、抱きつく力が少し強くなる。ソファから立ち上がり、ベッドへ導くように移動する。  寝間着を優しく脱がして、露わになる肌に指を這わせる。胸板から腹へ、敏感な部分をやんわり刺激したら、真琴の体が弓のようにしなる。 「あっ……リオン、そこ感じすぎて……声が出ちゃう」 「大丈夫だ、防音の結界を張ってる。感じてる君の声、聞かせてくれ」  私は、低い声で真琴に強請った。唇が首筋に触れ、軽く吸いながら下へ。真琴の硬くなったものを優しく握り、ゆっくりと扱く。滑らかな動きに彼の腰が浮き上がり、甘い吐息が部屋に広がる。  私は膝をつき、唇を近づける。舌で優しく舐め上げ、口に含む。丁寧に、愛を込めて動かすと、真琴の指が私の髪を掴む。 「んんっ……リオン、気持ちいい……もっと……」  その言葉に煽られ、動きを少し速める。熱い先走りが口内に広がり、欲求をさらに高めた。真琴の体が震え、頂点が近づくのを感じて、強く吸い上げる。 「あっ……も、イく……ううっ!」  声を上げて達し、熱い迸りが溢れる。私はそれをすべて受け止め、余韻に震える彼を抱き上げた。  ベッドに下ろし、上から覆い被さるようにして、再び唇を奪う。自分の服を脱ぎ捨て、真琴をうつ伏せにし、足を大きく開かせた。ローションで濡らしたそこに、ゆっくりと挿り込む。互いの体が繋がる瞬間、深い息が漏れる。 「真琴……愛してる……」  動き始めると、部屋に甘い喘ぎと肌のぶつかる音が響く。ゆっくり、だが深く腰を振る。真琴の体が再び反応し、互いの快楽が重なる。頂点が迫り、真琴の体が震え、声を上げて達する。  私は低く唸り、最後のひと突きで、彼の中にすべてを注ぎ込んだ。息を荒げ、互いに抱き合う。汗が混じり合い、肌が滑る。  真琴の目が潤み、私を見つめる。 「……リオン……幸せだよ」  その言葉に、胸が温かく満ちる。夫として、永遠にこの温もりを守る。 *** ――翌朝/騎士団(阿鼻叫喚) 「……聞いたか?」 「副団長、昨夜……」 「真琴殿、一歩も外に出てない……」 「窓も……開いてなかった……」 「……」  団員たち、全員が同時に悟った。 「……丸くなった説、撤回」 「いや……」 「別方向に、完全進化してる」  そこへ団長。 「おはよう……なんで全員、葬式みたいな顔してる?」  沈黙のあと、誰かが言った。 「団長……夜間副団長隔離案、再提出していいですか……?」  団長は、天を仰いだ。 「……結婚って、戦争だな……」 ***  朝。いつも通りの時間に目が覚めて、いつもより少しだけ、リオンの腕が強く回っていて。 (……離してもらえない)  でも、嫌じゃない。むしろ落ち着く……ただ、起き上がれないだけで。 「リオン?」 「……起きたか」  低くて眠たげで、それでも安心する声。 「今日、仕事……」 「行く。だが、その前に朝食だ」 「僕、自分で――」 「駄目だ」  やっぱり、離してもらえない。 (……昨日より重くなってない?)  そう思ったけど、言うと喜びそうだから黙った。  ようやく部屋から廊下に出た瞬間。 「……っ!」  目が合った団員が、一斉に背筋を伸ばした。 「お、おはようございます!!」 「おはよう……?」  声が裏返ってる。しかも、目が微妙に泳いでいる。 (……?)  別の団員。目が合う前に、壁際に寄った。 (――え、避けられてる?)  ちがうよね? たまたまだよね? 「……真琴殿」  声をかけてきた団員が、やたら丁寧。丁寧すぎる。 「お、お疲れは……」 「え? あ、うん……少しだけ?」  答えた瞬間、その人の顔色が青くなった。 「……副団長……」  視線が、僕の後ろに吸い寄せられる。振り返るとリオンが立っていた。いつも通りの制服。いつも通りの無表情……ただし距離が近い。いや近いどころじゃない。完全に背後。 「……何か問題でも?」  静かな声。団員、即座に首を振る。 「い、いえ!! まったく!! 何も!!」  早口。すごく早口。 (……え?)  食堂。席につくと周囲が半径二席分、いきなり空いた。 (……なんで? 僕、なにかした? 寝癖? それともリオンのせい?  リオンは平然と座り、僕の皿にパンを置く。 「たくさん食べろ」 「……ありがとう」  周りにいる団員たちが、一斉に目を逸らした。 (ええ……)  ひそひそ声が、聞こえる。 「……今の、見た?」 「……うん」 「……副団長、完全に……」 「……いや、真琴殿が……」 「……どっちも……」 (なに……?)  僕、知らない何かが起きてる。でも、聞く勇気が出ない。  朝食後、普通に歩く。リオンが、自然に隣で守る位置をキープする。それを見て、団員たちが、さっと道を開ける。 (僕、王様みたいになってない?)  違う。絶対違う。  向かい側からくる団長と目が合った。団長、一瞬で頭を抱えた。 「……真琴殿」 「は、はい?」 「……何も聞くな」 「え?」 「今日は、何も」 「え?」  団長は、ものすごく疲れた顔で言った。 「……とりあえず、副団長から離れるな」 「それ、いつもでは?」 「……今日は、特にだ」 (????)  部屋に戻る途中で、僕はそっとリオンの袖を引いた。 「……ねえ」 「どうした」 「……僕、なにか……怖がられること、した?」  リオンは、少しだけ考えて真剣に答えた。 「していない」 「……じゃあ、なんで……」 「私が選んだ。それだけだ」  それだけ。それ以上、説明はなかった。 (……よくわからない)  でもリオンの手は、確かに僕の手を離さなかった。そしてなぜか、その方が安全な気がして。 (……なんでだろ)  今日も、僕は何も知らないまま。騎士団中に、“最重要存在”として恐れられている。 ***  きっかけは、昼過ぎだった。団長室に呼ばれた。それだけで、胸がざわっとする。 (――怒られるのかな? 僕、何かやらかした……?)  隣を歩くリオンは、いつも通り落ち着いている。……落ち着きすぎていて、逆に怖い。  団長室の扉が閉まる。重い音が室内に響いた。団長は椅子に深く腰掛けたまま、こちらを見つめる。 「真琴殿」  それは、やけに真剣な声だった。 「……まず、謝っておく」 「え? な、なんで?」 「君は、何も悪くない」  その前置きが、一番怖いやつだと感じた。 「今日の朝から、騎士団内が軽く混乱している」 「こ、混乱……?」  思い当たる節が、まったくない。団長は、ちらっとリオンを見る。リオンは、目を逸らさない。 (……あ、これ、リオン絡みだ)  嫌な予感がした。 「原因は――」  団長が言いにくそうに、言葉を選ぶ。 「副団長が“我慢を放棄した”と認識されたことだ」 「…………」  数秒、理解できなかった。 「……え?」 「正確には、“君に対して”だ」  頭が、真っ白になる。 「……え?」 「昨日まで、副団長は“過保護だが理性はある”と見られていた」 「……はい……?」 「だが今朝、距離を取らない。視線を外さない。声が低く穏やか。命令口調ではない断定」  団長は、淡々と続ける。 「――これらが揃った結果」  団長は、額を押さえた。 「団員たちは、“副団長が完全に所有を宣言した”と判断した」 「…………」  理解がやっと追いついた瞬間、血の気が引いた。 「……え、それって……」  声が震える。 「……僕が囲われてる……みたいに?」 「みたい、ではない」 「ひっ……!」  思わず、声が漏れた。 「副団長は、何も言っていない。だが、“態度”がすべてを物語っていた」  団長は、遠い目をする。 「団員の証言をまとめると――近づいた者全員が、無言の圧で退かされた。真琴殿に向けられる視線が、魔法で一切遮断された。副団長の立ち位置が、完全に“逃走不可”」  ……やめて。聞けば聞くほど、怖い。 「そして、決定打がこれだ」  団長は、低く言った。 「副団長が言った言葉」  喉が鳴る。 「『私は、君を手放さない』」 「――――――」  思い出した。確かに言われた。優しくて穏やかで、安心する声で。 (……そんな意味だったの⁉) 「団員たちはな」  団長が、深いため息をつく。 「“敵国に向ける最終通告と同じ声だ”と震え上がった」 「そ、そんな……」  横を見る。リオンは、静かに立っている。何も否定しない。否定……しない。 「……リオン」  震える声で、名前を呼ぶ。 「……あれ……そんなに……重かった?」  リオンは、少し考えてから答えた。 「……自覚は、あった」 「あったんだ!」 「だが、我慢しているつもりだった」 「してなかったんだよね!」  思わず声が裏返る。リオンは、ほんの少しだけ視線を逸らした。 「……君が離れようとした」  胸が、ぎゅっと締めつけられる。 「それで、決めた」 「なにを……?」 「我慢を続ける理由が、なくなった」 「……っ!」  足が、少し震えた。 「……じゃあ……」  小さく、確認する。 「みんなが……あんなに怯えてたのって……」 「当然だ」  リオンは、穏やかに言った。 「私は君を奪う可能性がある存在を、すべて排除する覚悟を決めただけだ」 「覚悟、重すぎる!!」  思わず叫んだ。団長が、頭を抱える。 「……な? こうなる」  重苦しい沈黙。僕は、両手で顔を覆った。 (……僕、自分がどれだけ大変な立場か、全然わかってなかった……)  そっと、リオンの袖を掴む。 「……リオン」 「なんだ」 「……あの……その……」  勇気を振り絞る。 「……もう少しだけ……我慢……できない?」  一瞬。本当に、一瞬だけ。リオンの目が揺れた。 「……努力はする」 「努力なんだ……」  団長が、天を仰いだ。 「……ああ、もう……今日は“最悪の理解回”だ……」  僕は、心から思った。 (……これ以上、みんなを怯えさせないようにしないと……)  その決意が、逆効果になることも知らずに。

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