76 / 83
番外編 見たら終わり案件(大騒ぎ)2
***
騎士団宿舎で過ごす夜。私は、静かに扉を閉めた。部屋の中、真琴はソファに座って本を読んでいる。
「……団員たち、今日は妙に視線が優しかったね」
「そうか」
私は上着を脱ぎ、彼の前に立つ。
「真琴」
「なに?」
私は膝をつき、視線を合わせた。
「部下たちに、私は“丸くなった”と思われているらしい」
「……え?」
真琴が瞬きをする。
「よかったじゃない?」
「よくない」
即答しながら私は彼の手を取り、指先に口づける。
「私は、何一つ変わっていない」
「……リオン?」
「いや、正確には――」
少し、声を落とす。
「変わったのは、我慢をやめたことだけだ」
真琴が、息を詰めた。
「ちょ、ちょっと……?」
「安心しろ。逃がさないだけだ」
「それ安心じゃ――」
私は彼を引き寄せ、抱きしめる。強くはない。だが、完全に包む。
「……団員たちは勘違いしている」
「なにを?」
「優しくなった、と」
私は、耳元で囁いた。
「違う。必要なくなっただけだ」
「なにが……?」
「抑制が」
真琴の身体が、ぴくりと跳ねる。
「昼も夜も、私は君の夫だ」
「……っ」
「隠す理由がない」
静かに、しかし確実に私は彼の腰に手を回し、絶対に離さない。その瞬間、真琴の体温が私の胸に染み渡る。甘い息が耳にかかり、抑えていた欲求が静かに目覚める。
私は彼の顎を優しく持ち上げ、唇を重ねた。優しいキスから始め、ゆっくりと深く舌が絡み合い、互いの味を確かめ合うようにくちづけを交わした。真琴の息が漏れ、唇が震えるのを感じて、心が甘く溶ける。
「ぁん……リオン……」
彼の声が、甘く響く。私の手が背中から腰へ滑り、布地越しに引き締まった曲線をなぞる。真琴の体がびくりと反応し、抱きつく力が少し強くなる。ソファから立ち上がり、ベッドへ導くように移動する。
寝間着を優しく脱がして、露わになる肌に指を這わせる。胸板から腹へ、敏感な部分をやんわり刺激したら、真琴の体が弓のようにしなる。
「あっ……リオン、そこ感じすぎて……声が出ちゃう」
「大丈夫だ、防音の結界を張ってる。感じてる君の声、聞かせてくれ」
私は、低い声で真琴に強請った。唇が首筋に触れ、軽く吸いながら下へ。真琴の硬くなったものを優しく握り、ゆっくりと扱く。滑らかな動きに彼の腰が浮き上がり、甘い吐息が部屋に広がる。
私は膝をつき、唇を近づける。舌で優しく舐め上げ、口に含む。丁寧に、愛を込めて動かすと、真琴の指が私の髪を掴む。
「んんっ……リオン、気持ちいい……もっと……」
その言葉に煽られ、動きを少し速める。熱い先走りが口内に広がり、欲求をさらに高めた。真琴の体が震え、頂点が近づくのを感じて、強く吸い上げる。
「あっ……も、イく……ううっ!」
声を上げて達し、熱い迸りが溢れる。私はそれをすべて受け止め、余韻に震える彼を抱き上げた。
ベッドに下ろし、上から覆い被さるようにして、再び唇を奪う。自分の服を脱ぎ捨て、真琴をうつ伏せにし、足を大きく開かせた。ローションで濡らしたそこに、ゆっくりと挿り込む。互いの体が繋がる瞬間、深い息が漏れる。
「真琴……愛してる……」
動き始めると、部屋に甘い喘ぎと肌のぶつかる音が響く。ゆっくり、だが深く腰を振る。真琴の体が再び反応し、互いの快楽が重なる。頂点が迫り、真琴の体が震え、声を上げて達する。
私は低く唸り、最後のひと突きで、彼の中にすべてを注ぎ込んだ。息を荒げ、互いに抱き合う。汗が混じり合い、肌が滑る。
真琴の目が潤み、私を見つめる。
「……リオン……幸せだよ」
その言葉に、胸が温かく満ちる。夫として、永遠にこの温もりを守る。
***
――翌朝/騎士団(阿鼻叫喚)
「……聞いたか?」
「副団長、昨夜……」
「真琴殿、一歩も外に出てない……」
「窓も……開いてなかった……」
「……」
団員たち、全員が同時に悟った。
「……丸くなった説、撤回」
「いや……」
「別方向に、完全進化してる」
そこへ団長。
「おはよう……なんで全員、葬式みたいな顔してる?」
沈黙のあと、誰かが言った。
「団長……夜間副団長隔離案、再提出していいですか……?」
団長は、天を仰いだ。
「……結婚って、戦争だな……」
***
朝。いつも通りの時間に目が覚めて、いつもより少しだけ、リオンの腕が強く回っていて。
(……離してもらえない)
でも、嫌じゃない。むしろ落ち着く……ただ、起き上がれないだけで。
「リオン?」
「……起きたか」
低くて眠たげで、それでも安心する声。
「今日、仕事……」
「行く。だが、その前に朝食だ」
「僕、自分で――」
「駄目だ」
やっぱり、離してもらえない。
(……昨日より重くなってない?)
そう思ったけど、言うと喜びそうだから黙った。
ようやく部屋から廊下に出た瞬間。
「……っ!」
目が合った団員が、一斉に背筋を伸ばした。
「お、おはようございます!!」
「おはよう……?」
声が裏返ってる。しかも、目が微妙に泳いでいる。
(……?)
別の団員。目が合う前に、壁際に寄った。
(――え、避けられてる?)
ちがうよね? たまたまだよね?
「……真琴殿」
声をかけてきた団員が、やたら丁寧。丁寧すぎる。
「お、お疲れは……」
「え? あ、うん……少しだけ?」
答えた瞬間、その人の顔色が青くなった。
「……副団長……」
視線が、僕の後ろに吸い寄せられる。振り返るとリオンが立っていた。いつも通りの制服。いつも通りの無表情……ただし距離が近い。いや近いどころじゃない。完全に背後。
「……何か問題でも?」
静かな声。団員、即座に首を振る。
「い、いえ!! まったく!! 何も!!」
早口。すごく早口。
(……え?)
食堂。席につくと周囲が半径二席分、いきなり空いた。
(……なんで? 僕、なにかした? 寝癖? それともリオンのせい?
リオンは平然と座り、僕の皿にパンを置く。
「たくさん食べろ」
「……ありがとう」
周りにいる団員たちが、一斉に目を逸らした。
(ええ……)
ひそひそ声が、聞こえる。
「……今の、見た?」
「……うん」
「……副団長、完全に……」
「……いや、真琴殿が……」
「……どっちも……」
(なに……?)
僕、知らない何かが起きてる。でも、聞く勇気が出ない。
朝食後、普通に歩く。リオンが、自然に隣で守る位置をキープする。それを見て、団員たちが、さっと道を開ける。
(僕、王様みたいになってない?)
違う。絶対違う。
向かい側からくる団長と目が合った。団長、一瞬で頭を抱えた。
「……真琴殿」
「は、はい?」
「……何も聞くな」
「え?」
「今日は、何も」
「え?」
団長は、ものすごく疲れた顔で言った。
「……とりあえず、副団長から離れるな」
「それ、いつもでは?」
「……今日は、特にだ」
(????)
部屋に戻る途中で、僕はそっとリオンの袖を引いた。
「……ねえ」
「どうした」
「……僕、なにか……怖がられること、した?」
リオンは、少しだけ考えて真剣に答えた。
「していない」
「……じゃあ、なんで……」
「私が選んだ。それだけだ」
それだけ。それ以上、説明はなかった。
(……よくわからない)
でもリオンの手は、確かに僕の手を離さなかった。そしてなぜか、その方が安全な気がして。
(……なんでだろ)
今日も、僕は何も知らないまま。騎士団中に、“最重要存在”として恐れられている。
***
きっかけは、昼過ぎだった。団長室に呼ばれた。それだけで、胸がざわっとする。
(――怒られるのかな? 僕、何かやらかした……?)
隣を歩くリオンは、いつも通り落ち着いている。……落ち着きすぎていて、逆に怖い。
団長室の扉が閉まる。重い音が室内に響いた。団長は椅子に深く腰掛けたまま、こちらを見つめる。
「真琴殿」
それは、やけに真剣な声だった。
「……まず、謝っておく」
「え? な、なんで?」
「君は、何も悪くない」
その前置きが、一番怖いやつだと感じた。
「今日の朝から、騎士団内が軽く混乱している」
「こ、混乱……?」
思い当たる節が、まったくない。団長は、ちらっとリオンを見る。リオンは、目を逸らさない。
(……あ、これ、リオン絡みだ)
嫌な予感がした。
「原因は――」
団長が言いにくそうに、言葉を選ぶ。
「副団長が“我慢を放棄した”と認識されたことだ」
「…………」
数秒、理解できなかった。
「……え?」
「正確には、“君に対して”だ」
頭が、真っ白になる。
「……え?」
「昨日まで、副団長は“過保護だが理性はある”と見られていた」
「……はい……?」
「だが今朝、距離を取らない。視線を外さない。声が低く穏やか。命令口調ではない断定」
団長は、淡々と続ける。
「――これらが揃った結果」
団長は、額を押さえた。
「団員たちは、“副団長が完全に所有を宣言した”と判断した」
「…………」
理解がやっと追いついた瞬間、血の気が引いた。
「……え、それって……」
声が震える。
「……僕が囲われてる……みたいに?」
「みたい、ではない」
「ひっ……!」
思わず、声が漏れた。
「副団長は、何も言っていない。だが、“態度”がすべてを物語っていた」
団長は、遠い目をする。
「団員の証言をまとめると――近づいた者全員が、無言の圧で退かされた。真琴殿に向けられる視線が、魔法で一切遮断された。副団長の立ち位置が、完全に“逃走不可”」
……やめて。聞けば聞くほど、怖い。
「そして、決定打がこれだ」
団長は、低く言った。
「副団長が言った言葉」
喉が鳴る。
「『私は、君を手放さない』」
「――――――」
思い出した。確かに言われた。優しくて穏やかで、安心する声で。
(……そんな意味だったの⁉)
「団員たちはな」
団長が、深いため息をつく。
「“敵国に向ける最終通告と同じ声だ”と震え上がった」
「そ、そんな……」
横を見る。リオンは、静かに立っている。何も否定しない。否定……しない。
「……リオン」
震える声で、名前を呼ぶ。
「……あれ……そんなに……重かった?」
リオンは、少し考えてから答えた。
「……自覚は、あった」
「あったんだ!」
「だが、我慢しているつもりだった」
「してなかったんだよね!」
思わず声が裏返る。リオンは、ほんの少しだけ視線を逸らした。
「……君が離れようとした」
胸が、ぎゅっと締めつけられる。
「それで、決めた」
「なにを……?」
「我慢を続ける理由が、なくなった」
「……っ!」
足が、少し震えた。
「……じゃあ……」
小さく、確認する。
「みんなが……あんなに怯えてたのって……」
「当然だ」
リオンは、穏やかに言った。
「私は君を奪う可能性がある存在を、すべて排除する覚悟を決めただけだ」
「覚悟、重すぎる!!」
思わず叫んだ。団長が、頭を抱える。
「……な? こうなる」
重苦しい沈黙。僕は、両手で顔を覆った。
(……僕、自分がどれだけ大変な立場か、全然わかってなかった……)
そっと、リオンの袖を掴む。
「……リオン」
「なんだ」
「……あの……その……」
勇気を振り絞る。
「……もう少しだけ……我慢……できない?」
一瞬。本当に、一瞬だけ。リオンの目が揺れた。
「……努力はする」
「努力なんだ……」
団長が、天を仰いだ。
「……ああ、もう……今日は“最悪の理解回”だ……」
僕は、心から思った。
(……これ以上、みんなを怯えさせないようにしないと……)
その決意が、逆効果になることも知らずに。
ともだちにシェアしよう!

