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晒した腹のうち ※
布の擦れる音、換気ファンの唸り、遠い機械音。
目を閉じると、水音が聴こえた。
雨はまだ降っているようだ。
湿気を帯びた空気が肌に張りつき、息を吸うたび胸の奥が焼けるように熱い。
「……あんたの、好きなようにして、ください」
のぼせ上った頭が、本能に乗っ取られていく。
汗の浮いた首筋を舌が滑る。
触れられるたび、堰が少しずつ外れていく感覚。
理性が必死に名前をつけようとしたすべてが、音を立てて崩れた。
「……英司って呼んでください」
堪らないとばかりに腰を押し付けられる。
硬くなった熱が感じられ、腹の奥が甘く疼く気がした。
「……英司の、好きにして」
息が上がり、声が頼りなく揺れた。
ズボンのゴムの隙間に手が差し込まれ、克巳の背筋がびくりと震えた。
尻の合間に指が伸び、誰にも触れられたことのない克巳の秘所までたどり着く。
「——そこは、」
「大丈夫です。ぼくを信じて」
耳元で囁かれた言葉に縋りつきたくなる。
指先が動くたびに、布の下でくちゅくちゅと水音が響く。
「え……濡れて、なんで、俺、どうして」
体の異常な反応に、何か粗相をしたのではと焦りが心臓を冷やす。
「克巳さん、ここが濡れたのは初めてなんですか?」
「こんな、なったこと、ひっ……いやだ……っ」
腰に甘い痺れが走るたび股座が濡れていく感触に、わずかに残った羞恥が膨らむ。
「大丈夫、無理に抑えようとしないで。生理的な反応です」
克巳は弱々しく頷く。額から汗が伝い落ちる。
息が上手く吸えないまま、甘い嬌声が漏れ出す。
「は……ぁ、あ……っ ゆび……くぅ……っ」
「きもちいいですか? 怖くないですよ」
しとどに濡れた秘所には骨ばった指が潜り込み、馴染ませるようにゆっくりと抜き差しを繰り返す。
英司がそっと克巳の顔を覗き込む。
「……かわいいです、克巳さん」
丁寧な言葉なのに、声の端に興奮が滲んでいる。
克巳は首を横に振ろうとしたが、うまく動かない。
「あ、アッ……それ、いやだ……おいっ……ああっ」
「大丈夫、このまま出してもいいですよ。きもちよくなるところ、見せてください」
喉が詰まり、言葉が途切れる。
体の中で何かが波を打ち、熱を押し上げてくる。
克巳は声にならない悲鳴を上げながら、窮屈な下着の中に精を吐き出した。
陰茎を触ったときの感覚と異なる、蕩けるような快感が体の奥を満たす。
「……すごくかわいいですよ」
氷のようだと思った瞳は、まるで青い炎のように熱を灯していた。
「克巳さんのフェロモン、たまらないです。甘く、ぼくを誘ってる」
愛液と精液で濡れそぼる下着の中で、英司の指が速度を上げる。
潜り込んだ指が増え、克巳の胎内を広げるように押し込まれる。
はぁはぁ、ぬちょぬちょ。
英司の熱い息と卑猥な水音が耳の奥まで犯す。
「ひぐっ、おれ、もう……ああ……っ からだ、おかしい……っ」
着込んだままの作業着の下では、濡れた体が開放を求めて疼き続ける。
足元がふらつき、英司の胸に凭れかかった。
張りのある筋肉越しに、どくどくと鼓動の音が聞こえる。
石鹸のような英司の香りが、どろりとした芳醇なものへと塗り替えられていった。
「……ぁ」
鼻腔の奥、フェロモンの受容体から脳へ電気信号が走る。
——これだ。
ずっと薬で押し潰してきたものが、内側から形を持ちはじめる。
欲しい。この男の種が、欲しい。
腹の奥で眠っていた雄子宮がズキンと甘く痛んだ。
「ほ、しい……」
無意識に零れた言葉こそ、克巳の体の本音だった。
英司のαとしての熱を腹の中に収め、強い種を搾り取りたい。
遺伝子が命じる本能的な欲求が、克巳の体を目覚めさせる。
英司の瞳がぎらりと光る。
獲物を前にした獣のように歯を食いしばる。
「……お腹いっぱい、あげます」
指を後孔から引き抜くと、腹筋につくほど反り返った陰茎を取り出す。
克巳の目線がそれに釘付けになる。
長大な逸物への恐怖心が湧くよりも早く、期待感で肌が沸き立った。
克巳は壁のほうへ向き直ると、ズボンを下ろしてぐっしょりと濡れた秘所を晒した。
脚を少し広げて、引き締まった尻を英司のほうへ差し出す。
ここがどこなのか、この後どうなるのか。
現実的な考えは、圧倒的な快感と濃厚なフェロモンに上書きされる。
「……克巳、さん……」
フゥフゥと逸る息がうなじに当たる。
もしも噛まれたら。そう想像しただけで、秘所からこぽりと愛液が溢れる。
重さのある陰茎が尻の合間をずりずり擦る。
「はやく、ほしい……なぁ、はやく……」
「……っ、克巳さん、はじめてでしょ……煽らないで」
愛液が絡んだペニスが蛍光灯の下でぬらぬら光った。
血管が浮いた硬い熱が、後孔へゆっくり飲み込まれていく。
「あ、きた、きた……っ ああ” 、ぐぅーー~~ッ」
指よりもずっと太くて熱い塊が、肉壺の中を満たしていく。
苦しいはずなのに体は悦びに震える。
膨らんだ前立腺を押し潰され、勢いのない精液が漏れ出す。
食い締めるように肉壁が蠢きはじめ、種を求めて逸物を愛撫する。
「……~~っ! かつみ、さん……っ あぁ……すごい……っ」
英司は克巳の腰を両手で掴むと、自分本位なピストンで秘所を犯す。
英司の中でもまた、理性と本能が拮抗している。
「かつみさん……きもちいいです……っ フェロモン、もっと出して……」
肌のぶつかる乾いた音が密室の壁に跳ね返る。
硬く膨らんだ亀頭が直腸の奥、雄子宮の入り口を無遠慮に叩く。
「ふぅ…っ!? あ” ひっ……やさし、ぐっ、しろよぉ……あ”ぁ”っ」
克巳は腹の奥まで容赦なく責められ、オーガズムの波から降りられないまま悲鳴を上げる。
揺さぶられるうちに足腰が砕け、不格好な姿勢で壁に縋りつく。
「すみません……やさしく、します……っ」
鋭く息を飲む音がする。
殊更にゆっくりと陰茎が引き抜かれ、その刺激でまた克巳の内腿が痙攣した。
「あ”ぁ”ーー……ひ、ぁ……っ」
克巳の腰が反り固まり、肉壺を収縮させて快感を享受する。
ぽかりと口を開けたままひくつく後孔から、泡立ち濁った愛液が滲んだ。
英司の熱い舌が日に焼けたうなじを舐める。
「……ひどくしないので……もう一回、克巳さんの中に入ってもいいですか。克巳さんの雄子宮に、出させてください」
懇願の声色だが、英司のフェロモンは暴力的なほど芳醇で、克巳の脳へ染み込む。
尻をペニスに押し付けるように、腰を振って応える。
——なんて酷い、甘い堕落なんだ。
目深に被った帽子の下で、克巳はうっとりと微笑む。
英司は鼻をひくつかせ、何度もうなじに口づけが落ちた。
「克巳さん……フェロモン、上手に出せてえらいですよ」
密室の中は噎せ返るような甘さで満たされ、息をするたびに体温が上がる。
二人のフェロモンが混ざり、溶け合う。
再び陰茎が挿入される。
ぬかるんだ肉壺の先、雄子宮の手前を小刻みに擦られ、甘えた声が溢れた。
「あ、ああ……っ えーじ……っ あ、きもちぃ……、これすき、すき……っ♡」
英司のピストンに合わせて腰をくねらせる。
快感の温度は上昇を続け、擦り合わせた肉から燃えるような悦楽を感じる。
ぐちょぐちょと、愛液と先走りが胎内で掻き混ぜられる音がする。
強烈な絶頂の予感が体を突き動かす。
「克巳さん、これ好きなんだ……? ポルチオ突かれるの、気持ちいいんですね……っ」
「すき、ぽるちおっ、すき……♡ あ……またイく、イく……えーじ♡」
蕩けきった克巳の脳に、深い快感が焼きつく。
こんなイキ方を覚えてしまったら、もう元には戻れない。
不可逆の変化が克巳の心身を甘く堕とす。
「克巳さん、イって……ぼくが見てますから……っ」
熱い声が耳の奥に響く。
意識が混濁し、目の前が白くスパークする。
壁に縋りついていた手が滑り落ちそうになるのを背後から縫い止められ、逸物がさらに奥へと沈み込む。
「——ああ”あ”あ……ッ♡ お”オ”……♡♡ ほ、お”……っ♡♡」
全身が痙攣し、後孔が強く収縮する。
吐精のないまま迎えた絶頂は強烈だった。
「……ぐっ、中すごい……持っていかれそう……っ」
英司はうなじへキスを落としながら、畝る肉壺の奥へ腰を進める。
「噛みたいなぁ……♡ 克巳さんのうなじ、おいしそう……ここに噛みついて、雄子宮に中出ししたいなぁ……♡」
夢見心地の表情でうなじに甘噛みを繰り返す。
克巳の発情が高まるのを感じ、本気ピストンで子宮口を抉る。
「お”ぉ”♡ つよ”い……ッ♡ しきゅ、イク、すぐイクから……っ♡」
「ぼくもイきそう……っ 中に出しますよ、克巳さんの子宮にぶっかけますよ♡」
「はやく、せーし、ほし……っ♡ あ”ひっ♡ お”、ぐぅ……っ♡ いちばん、おく♡」
覆いかぶさっている英司の体が燃えるように熱い。
胸の奥から湧き出す多幸感から涙が滲む。
激しい性行為の音がぼんやりと反響して聞こえる。
——これが本当の自分?
絶望も諦観もなく、克巳の意識が体から離れていく。
体中を濡らして乱れる自身の姿を冷静に捉える。
なんて無様なんだ。けれど、幸せそうだ。
二つの体が一つになって、重なり揺れている。
この時代の人間が見ないようにしている原初的な肉欲。
切除しようとしたΩという特性。
生々しい、性の匂い。
「——克巳さん……ッ!」
ドチュッ、と切先が奥の弁に嵌まり込み、灼熱の奔流が注ぎ込まれる。
乾いていた腹の奥が満たされていく。
DNAに刻まれた悦びが全身を駆け巡る。震えが止まらない。
「ア”ーー……っ♡……ッ♡ーー……♡♡」
瞳の焦点を失い、息すら止めて絶頂を味わう。
この世にこんな快楽があったなんて。
もうまともじゃいられない。
息も絶え絶えのまま、顎を掬われ唇が重なる。
人生初めてのキスだった。
互いの唾液を吸い、舌を擦り合わせ、歯を舐める。
至近距離で見つめ合った瞳は、鮮やかに燃えている。
「……ずっと、大切にします」
分厚い手のひらが克巳の腹を撫でた。
二人の手首の計器は、エラーメッセージを示したまま静かに光っていた。
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