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第2話 ギルドにて
王都の平民街には様々な店が軒を並べている。
魔石店を営むカイの店も、そんな平民街の商店が建ち並ぶ一角にあるのだが、周囲の賑やかさに比べて、カイの魔石店はいつも客が少ない。
魔石というのは、名前のとおり魔力が宿っている宝石だ。
含まれている魔力量に差はあるが、自然が生み出した宝石や天然石は全て魔力が含まれているのだ。その為魔石店は宝石を扱う店でもある。
カイの店は宝石の中でもとくに、魔力含有量が多い物を販売している。
一般人向けの魔石店というよりも、魔術師のような専門職向けの商品を並べているのだ。
質が良く高級な魔石を扱う老舗という、いかにも高そうな店という雰囲気があって、店内に入りにくいというのもあるが。
お客が少ない一番の原因は店主であるカイが、非常に無愛想で口数が少なく、商売が下手なせいだった。
親の代から続く魔石店なのに、商魂が全くないのだ。
店の接客はケット・シーのキキの方が上手で、カイは主に魔石の加工や品質管理、仕入れを担当している。
両親が健在の頃は、魔石店の売り上げだけで生活が出来たのだが、現在は売り上げも下降して右肩下がりだ。
その為カイは冒険者ギルドに登録して、魔術師としてギルドで依頼を受けて金を稼いでいた。
むしろ本人的には魔術師が本業で、魔石店は副業なのだ。
そんな事を口にしたら、キキに怒られそうだが。
魔石店は今日も朝からお客が一人も来ず、暇を持て余したカイは、店をキキに任せて冒険者ギルドに来ていた。
平民街にある冒険者ギルドは、仕事を求めて様々な人が集まり、いつも騒がしい。
カイは騒がしいテーブル席は避けて、壁際に向かう。
壁には様々な依頼書が張り出されていた。
カイは一つ一つ依頼を確認して、条件の合いそうな物を探していた。
ソロと呼ばれる一人で受けられる依頼で、報酬額が高い物。
一回の依頼で大金が稼げる物が良い。
腕に自信のあるカイには、依頼の難易度はたいして重要ではないのだ。
全ては金の為だった。
「お兄さんも依頼受けるんだ」
聞き覚えのある声に、カイは思わず振り返る。
「っ!」
カイの背後に見覚えのある美丈夫がいた。
先日店に来たあのチャラい男だ。
「おいおい、兄ちゃん。そいつはソロしか受けねぇよ。魂喰い の魔術師はソロ専門だから」
外野が男にそう声をかけてる。
その男に仲間の男が言う。
「やめとけ。あれは砂塵の白狼だぞ」
「マジかよ」
急に外野は顔色を変え、黙り込んでしまった。
「魂喰い の魔術師カイって、お兄さんの事だったの? 確かに、黒髪にカーバンクルを連れてるねぇ。噂通りだ」
カイは男を無視してギルドの受付に行く。
「この任務を受けたいんだが」
受付嬢に依頼書を渡したカイの脇に、美丈夫はぴったりとくっついて来る。
「これ、俺も一緒に行くよ」
「な……」
突然男に横入りされて、カイはギョッと目を剥いた。
「ご一緒に参加ですね。かしこまりました」
受付嬢はニッコリと微笑む。
「ちょっと待て、俺は一人で行く!」
慌てて訂正して貰おうとカイは叫ぶ。
「でも、ソロでは難易度が高いですよ?」
「ほら、受付のお姉さんもそう言ってるじゃない。一緒に行こうよ、カイちゃん」
ニコニコ愛想よく微笑みながら、美丈夫が言う。
「はぁ? ちゃんはよせ! 寒気がする」
思わずじんましんが出そうになって、カイはブルブルッと震えが走った。
「それでは魔術師カイ様と、剣士スノウ様で承りますね」
受付嬢はちゃっちゃと書類を受理してしまった。
「スノウ?」
聞き覚えのある名前に、カイは思考を巡らせた。
「あれ? 俺の事、知らない? 砂塵の白狼なんて二つ名もあるんだけど」
(砂塵の白狼……スノウって言えば……なんでもこなす暗殺者だったはず……)
軽薄そうな態度からは、想像出来ない物騒な噂を思い出し、カイは身を固くした。
「そんなに警戒しなくても良いよ。本業は自宅警備員だし」
意味深な事を言いながら、スノウはヘラリと微笑む。
その真剣味の感じられない態度にイラッとして、カイはさっさとギルドから出て行く。
「待ってよ、カイちゃん」
「のんびりしてる時間はない。それとカイだ」
「オッケー、カイ。俺の事はスノウで良いよ。そう言えば、今日店はどうしてるの? あの猫ちゃんが店番をしているの?」
ギョッとするカイに、スノウは全く臆さない。
「あの猫、ケット・シーだよね? 幻獣のケット・シーにカーバンクルをペットにしてるなんて……」
「何が言いたい?」
ギリッとカイはスノウを睨みつけた。
「いや、カイはただ者じゃないなって」
「それはあんたもだろう? 隷従の首輪をつけた暗殺者なんて、聞いたことがない」
今は大きなフードコートで狼の耳と尻尾を隠し、首元も見えないが……
「あれ? バレてた?」
スノウは被っていた大きなフードを外し、頭に巻いてた布を解く。そこから現れたのは、大きな狼の耳だった。
「カイだってあるでしょ? 狐の耳と尻尾。俺は狼だからね、匂いで分かる」
(やっぱり、気づいてたんだ)
「お互い正体を明かしたんだから、仲良くしようよ」
すり寄ってくるスノウをうざいと突き放したいのに、愛想の良さに絆されそうになる。
こんなふうにカイに近寄ってきた男はスノウが初めてで、カイは若干戸惑っていた。
「俺に近寄って来た理由は何だ? 仲良くしたいなら、教えろ」
カイが問うと、スノウはガリガリと気まずそうに後頭部を掻く。
「言ったでしょ、自宅警備員だって。ご主人様の命令でさ、カイの素行調査してたのよ。だってカイってば、毎回高額落札してるでしょ? オークションのオーナーとしては、金の出処が気になるみたいでさ」
「金の出処によっては、始末しろって言われてたって事か?」
スノウは意味深な微笑みを崩さず、何も答えない。
(肯定って事か)
「あんたのご主人様に言っとけ。俺の金は真っ当に稼いだ物だってな。犯罪に手を染めるような事はしてないから、警備隊に目をつけられるような事もない。オークションが潰されては、俺としても困る」
「オーケー、カイ。聞き分けのいい子は大好きよ」
パチリとカイ相手にウインクをして、スノウは上機嫌だ。
(なんなんだ、こいつ)
こんな軽薄でチャラい男に絡まれるとは、なんて厄日だ。
カイは完全にスノウにドン引きしていた。
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