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第3話 コカトリス討伐
カイがスノウと共にギルドで受けた依頼は、交易路に最近住み着き、旅人を襲うようになった、コカトリスを討伐する事だった。
コカトリスという魔物は、頭がニワトリ、胴体は龍の鱗と羽を生やし、尻尾が蛇という異様な姿をしている。
視線が合えば石化の魔法で相手を石に変え、体には猛毒を宿していた。
槍で突けば流れ落ちた毒で、突いた者を毒殺してしまうという逸話もあって、厄介な魔物として知られていた。
意外にも草食で、襲った相手を喰らうという事はしないが、付近の水場を毒で汚染したり、農産物への被害は甚大だった。
「なかなか厄介な相手だねぇ〜」
カイに付いて歩くスノウは呑気なものだ。
コカトリス討伐は通常石化の魔法対策に、鏡を用いたり、雄鶏の鳴き声を嫌う習性を利用したりと、方法はあるが。
ギルドに討伐の証拠を持って帰る必要があるので、石化させれば重くなるし、逃げられたら意味がない。
カイは呑気なスノウは戦力外と見なして、一人で討伐する方法を考えていた。
「早速お出ましだ」
スノウが言うまでもなく、コカトリスに気付いたカイは行動を開始する。
まずは面倒な石化の魔法を封じる為、カイは風魔法で鋭い刃を作り出し、高速でコカトリスの両目を切り裂いた。
眼球を潰し、石化の魔法を使えなくする。
次は猛毒の体を押さえつけ、動きを止める。
土魔法で地面からゴーレムの腕を生やして、コカトリスを捕まえた。暴れるコカトリスの動きを封じる為、大気中の水を凍らせ、コカトリスの全身を氷漬けする。
絶対零度の氷柱に閉じ込めたコカトリスを、カイは冷たい冷気で絞めあげた。
完全に息の根が止まった頃を見計らって、カイはコカトリスの体を解凍する。
後は討伐の証拠として、ニワトリの頭部を切り落とすだけだった。
手持ちのダガーで頭を切り落とそうとした時だった。
死んだと思っていたコカトリスの蛇の尾が、動き出したのだ。
油断していたカイは避ける間もない。
噛み付かれると思った時だった。
カイの様子を伺うだけで、一切戦闘に参加しなかったスノウが、突然動いたのだ。
スノウは素早く剣を振るうと、蛇の頭を切り落とした。
間一髪助かったカイは、素直にスノウに礼を言う。
「ありがとう」
まさかカイが礼を言うとは思っていなかったのか、スノウは目を見開いていた。
スノウの剣は蛇の血が付着しており、毒蛇の返り血をスノウはほんの数滴浴びていた。
「血がかかったのかっ」
「これくらい大丈夫だよ」
「駄目だ。コカトリスの血は猛毒だ。ちゃんと処理しないと」
カイはスノウにかかった返り血を見て、手当てを始める。
カイは魔法で作り上げた水でスノウの腕と剣を念入り洗い、血を浄化する。持っていた毒消しを念の為と言って、カイはスノウに手渡した。
「苦いけど飲んでおけ」
カイの様子を見て、スノウは酷く驚いた顔をした。
「参ったな……助けたつもりが助けられちゃって……カイって優しいんだね。魂喰い の魔術師は冷酷って聞いてたから、ちょっとびっくりした」
「……同行者が死んだら、寝覚めが悪いからな」
カイは他人とパーティーを組まないソロ専門のせいか、周囲の人間が好き勝手に言ってる事は知っていた。
無愛想な事もあって、冷たい印象を持たれているのだ。
冷酷と言われるのは、一人で容赦なく魔物を屠って来るからだろうと思っていた。
カイの戦いぶりを見たわけでもないのに、噂をする者は無責任だから。
今度こそニワトリの頭を切り落としたカイは、念入りに毒の血抜きをして革袋にしまう。
「依頼完了だ。ギルドに戻る」
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