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第9話 デート
スノウの情報提供のお陰で、カイが大きなアレキサンドライトをオークションで競り落とした翌日の事。
スノウは手土産片手に、またカイの店にやって来た。
「ねぇ、デートしない? 暇でしょ? お店はさ、キキちゃん達に任せてさ~。これからデート行こうよ?」
「は? あんた何気に失礼だな。確かにこの店はお客が少ないが……これでも老舗なんだが」
いきなり「暇でしょ?」と決めつけられて、カイはピキッと青筋を立てる。
(確かにお客はいない。いないけどな!)
ムカッとするカイの腕をつかみ、スノウは歩き出す。
強引だけど悪気はないのが分かるから、カイは渋々スノウの言うデートとやらに付き合ってやる事にした。
「仕方がない。キキ、ララ、店番を頼む」
スノウがカイを連れてきたのは、賑やかなレストランだった。
昼間の平民街を歩く事は珍しいカイにとって、こんな賑やかな店に来たことは無かった。
普段日用品の買い出しはララに任せているので、カイはよく知らない事が多いのだ。
子供の頃からこの街に住んでいるのに、とてもおかしな事だろうけれど。
人混みが嫌いなカイには、スノウが連れ出さなければ、きっとこの先も縁のない店だっただろう。
「お嬢さん、この席空いてるかな?」
レストランに入ると、スノウは気軽に周囲の女性客に声をかけて、簡単に空いてる席を見つけてしまった。
「格好いいお兄さん、こっちで一緒に食べない?」
スノウの容姿に色めき立った女性客から、相席のお誘いがかかった。
だがスノウは軽くウインクしながら、スマートに断る。
「ごめんね、デート中なんだ」
女性客達はカイの姿を見て、納得する。
「可愛い彼女がいるんじゃ、仕方がないわね」
(彼女って……俺は男だが?)
ニコニコしてるスノウを前にして、カイは冷めた視線を向けながら、呆れてため息をついた。
「カイは何が食べたい? 好きな物を頼んで良いよ?」
スノウはそう言うが、カイはこういう店は初めてで、何がいいのか選べない。
「あんたのおすすめは? 同じので良いよ」
「オーケー、それじゃあね……」
スノウは手際良く定員に注文する。
(慣れてるんだな……)
カイはその様子をなんとなしに見つめていた。
今日のスノウの姿は、平民街を歩いていても誰も気に留めないような、普通の剣士に見えた。
大きなフードを被った頭には、布で巻いて隠した大きな狼の耳がある。
さり気なく首に巻いたスカーフで、隷従の首輪も隠しているけれど。
この涼し気な顔をした美形の男が獣人奴隷だなんて、この店にいる客、誰にも分からないだろう。
見た目にはキザでチャラい自由人に見えるのに、誰よりも自由のない縛られた男。
(難儀だな……)
他人事の筈なのに、何故かカイはどうにかしてやりたいような気持ちになってしまう。
「どうしたの? そんな顔して」
難しい顔をしていたカイを、心配そうにスノウが覗き込んでいる。
カイは我に返ると「何でもない」と顔をそらした。
(あんたの事を考えていたなんて、言えるわけがない)
スノウが訝しげな表情を浮かべた時、ちょうど注文した料理が運ばれて来た。
「冷める前に食べようか」
スノウに勧められて、カイは食べ始める。
運ばれて来た料理は、確かに美味かった。
賑やかだったレストランを出ると、カイは当然のようにスノウと別れて、自分の店に帰ろうとした。
「ごちそうさま、美味しかったよ」
「ちょっ! ちょっと待った!!」
だがスノウはカイを引き留めた。
「まだデートは終わってないでしょう? もう少し一緒にいようよ」
すがりつきそうな目をして、スノウはカイの腕を掴んだ。
「デートって昼飯だけじゃないのか?」
「今日一日! 夕飯もおごるから!!」
必死に食い下がるスノウに、カイは大仰な溜息をつく。
「それじゃ……俺の行きたい所に付き合ってくれ」
カイがスノウを連れて行ったのは、通い慣れた冒険者ギルドだった。
「ねぇ、カイ。なんでデートなのにギルドなの?」
「俺が行きたい所に、付き合ってくれるんじゃないのか?」
じっとりとした目でカイはスノウを見る。
カイの目力に負けたのか、スノウは両手を上げて降参した。
「オーケー、カイに付き合うよ」
いつものようにギルドに入ると、カイは依頼書の貼ってある壁際に向かった。
「あった。これだ」
カイは壁に貼ってあった依頼の中から、今まで手を出さなかったソロでは厳しい依頼を選ぶ。
カウンターに向かい受付嬢に依頼書を手渡すと、依頼内容を見た受付嬢は目を瞬く。
「カイさんがソロ以外の依頼選ぶなんて、珍しいですね」
「今回は連れがいるんでな」
「どうも〜連れです」
「あら、スノウさん? この前の依頼で仲良くなったんですね。カイさん良かったです。スノウさんがいれば、こちらとしても安心ですから」
受付嬢はちゃっちゃと素早く手続きを済ませた。
ギルドを出た二人は、ギルドが所有する馬を借り、目的地へと走り出した。
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