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第11話 ソウルイーター
夜風が頬を掠めて行く。
星明かりの下で公園のベンチに座りながら、カイはアラクネの魔石を取り出した。
「今日、アラクネから出て来た魔石。これは魂魔石 って言って……魔石の中でも一番価値の高い物なんだ……魂魔石 はその名前のとおり、魔物の魂が魔石となった物。魂喰いとも呼ばれている」
カイは寂しそうに口にした。
「スノウは……魔石には種類がある事、知ってるか?」
「種類? 知らない。魔石って種類があるのか?」
「知らなくても仕方がない。魔術師でもなければ、そこまで気にする者もいないだろう」
カイはふっと息を吐き出した。
「魔石は三種類あるんだ。地中から発掘される自然魔石。一番多く流通してる、自然界に存在する魔力が結晶化した物だ。一度使用すると簡単に壊れてしまう」
カイは右の手の平に魔力を凝縮する。
集まった魔力は結晶化し、まるで宝石のような魔石が誕生した。
「これは人工魔石。術者の魔力を結晶化した物だ。この魔石は俺の魔力で作り上げた。圧縮された魔力量は多く、自然魔石とは比べ物にならない」
カイはスノウに作ったばかりの人工魔石を手渡した。
「スノウにあげるよ。換金すれば、それなりの金になる」
「カイが作ってくれた魔石を、売れるわけないよ」
スノウが戸惑う。
「だったら持っていてくれ。きっと何かの役に立つから」
カイは穏やかな表情を浮かべた。
「そしてアラクネから出た魔石。魂魔石 って呼ばれてるこの魔石は、全ての魔物が持っているわけじゃない。高位の魔物の中でも、とくに知能が高く、人間と同じように感情を持った者からしか取れない。そのせいで乱獲され、滅亡した魔物の一族もいる位だ」
カイはスノウに魂魔石 を手渡す。
魂魔石 を手にした途端、スノウは表情を変えた。
「今、一瞬だけど……映像が浮かんだ気がした……」
「それはアラクネの記憶の一部だ。魂魔石 は、魔物の魂そのものだから」
スノウはカイの言葉を聞き、神妙な表情を浮かべた。
「俺は魂魔石 を集めているんだ。俺が集めている魔物の一族の魂魔石 は、アレキサンドライトに酷似していて……だから俺はアレキサンドライトを買ってる」
「カイは……どうして魂魔石 を集めてるの?」
スノウに問われ、カイは遠い目をした。
「俺の両親の悲願だったから……俺はこの世界に散らばってしまった、滅亡した一族の魂魔石 を、全て集めたいと思ってる……」
それは途方もない事だけれど……
「俺も……父親の残した最後の願いを、叶えたいと思っているよ。自分だけの群れを持ちなさい……それが父の遺言なんだ。俺は白狼の一族だから……狼は群れを無くすと、孤独に耐えられない。弱い生き物だから……」
スノウの口から出た思わぬ言葉に、カイは驚いた。
「滅亡した一族の、親の願いを必死に叶えようとしてる……俺達は似た者同士だったんだね……俺は何故カイに惹かれるのか、理由が分かった気がする……」
スノウはカイの腕を掴むと、引き寄せた。
突然の事にカイは抵抗する事も出来ずに、スノウの腕の中に抱き込まれてしまう。
「……思ってた以上に、カイは華奢だね。ちょっとびっくりした。戦ってる姿は、格好いいのに」
カイは身動ぐと、スノウの腕の中から逃げ出そうとした。
だが、力強い腕から逃げ出すことは出来ない。
「もう少しこのままでいさせて……」
スノウに請われて、カイは抵抗することを止めた。
力を抜き、ぽすっと素直にスノウの胸に顔を埋める。
カイの耳にスノウの心臓の音が聞こえた。
仄かに温かい体温が気持ち良い。
でも……
「……あんたの言葉は……どこまで本当で、どこからが嘘なのか……分からない」
ポツリと呟いたカイの言葉に、スノウはビクリと震え、カイを解放する。
「カイ……」
見上げたスノウの表情は、酷く傷ついたと言いたげだった。
「……ごめん……言い過ぎた……」
カイが素直に謝ると、スノウはほっとしたように表情を和らげる。
「良いんだ。元はと言えば俺が……カイをからかうような態度を取ってばかりだったから……」
スノウは後悔してるのか、寂しそうに俯く。
「また……デートしてくれる? カイが俺を信じてくれるまで、何度だって口説くから」
カイは目を丸くしながらも、小さく頷く。
純粋にスノウの言葉が嬉しいと思ってしまったのは、何故なのか?
カイはこの気持ちがなんなのか、もう少しで分かりそうな気がした。
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