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第15話 暗殺任務(スノウ視点)※残酷描写あり

 仄暗い夜空から、窓越しにうっすらと月明かりが差し込んでいた。  真夜中目覚めたスノウは、天井がある事に気付く。  森の中にいると思ったのに。 (ここはどこだ?)  スノウは視線を巡らせると、傍らにうつ伏せになって眠るカイがいる事に気付いた。 (なんでカイが? ここはもしかして……)  窓から差し込む月明かりで、スノウはカイの自宅に寝かされていたと知る。 (カイが……助けてくれたのか?)  何故カイが、森の中で行き倒れていたスノウを、見つけたのか分からないが…… 「カイ……」  スノウは重い腕を持ち上げ、カイに触れたいと思ったけれど、傷だらけの体は指一本動かせなかった。 (今は休もう……体さえ回復すれば、カイに触れる事が出来る)  目を閉じたスノウは、再び眠りに落ちていった。  混沌とした夢の中で、スノウはオーナーに呼び出された日の事を思い出していた。 「私のオークションに、贋作を出品した貿易商がいたの」  この日のオーナーは、酷く機嫌が悪かった。 「あのペテン師のお陰で、信用に傷がついたのよ。この私の顔に泥を塗った……許せない事だわ……」  スノウは何を命じられるか、薄々気づいていた。 「ねぇ、私の可愛いスノウホワイト。お母様に恥をかかせた男は、許せないでしょう?」 「……はい」  子供の頃からオーナーには逆らえなかった。擬似親子として、オーナーをお母様と呼び、息子として育てられたスノウは、そう刷り込まれている。 「始末してちょうだい。こんな愚かな振る舞いをする人間がどうなるか、見せしめなければならない。お母様に恥をかかせた男は生かしてはおけないけれど、ただ殺すだけでは駄目よ。恐怖を植え付けなければ……男の一家全て消してしまいましょう。手始めに家ごと燃やしてしまうのも良いわね」  ギラリと剣呑な色を帯びたオーナーの瞳が、スノウを見据える。 「分かりました。お母様のお心の為に尽くします」  従順な息子であり、愛玩動物でしかないスノウには、断る事は許されない。  しょせんはオーナーの駒なのだと、スノウは腹の底が冷えていくのを感じていた。    スノウはオーナーの命令に従って、王都にある貿易商の館に単身忍び込んだ。  貿易商は平民だったが豪商で、平民街には似合わない豪華な屋敷に住んでいた。  金の力で裕福な暮らしをしている反面、その金を狙う者達への警戒心はとても強く、屋敷には護衛の傭兵が目を光らせていた。  だがそんな傭兵も、スノウにとっては幼子と変わらない。  持ち前の運動神経の良さと、獣人特有の腕力の強さは、人間とは比べ物にならないのだ。  スノウは貿易商が雇っていた傭兵を背後から襲い、首を切り落とす。  飛び散った鮮血の上に、ゴトリと傭兵の体が転がった。  俊敏に動いたスノウは、屋敷を取り囲むように魔石を配置し、火を放つ。  燃え上がった炎は、魔石を炸裂させる。魔石の爆発により、屋敷は一気に炎に包まれた。  火の海となった屋敷の中から、慌てて悲鳴を上げ飛び出してきた貿易商の家族を、無表情のままスノウは容赦なく斬りつけた。  地面に血だまりができ、転がった遺体をスノウは全て燃え盛る炎の中に投げ込んだ。  殺した人間の中には、貿易商の姿はなかった。  周辺の街に買い出しに出ているようだ。  スノウは貿易商の男の姿を追って、王都から抜け出した。    貿易商の男を探すのは、思っていたよりも時間がかかってしまった。  周辺の街を探し回り、貿易商の行方を追った。  人好きのする軽薄で気さくな男を演じれば、スノウの容姿の美しさにつられて、口を開く者も多い。  情報収集はスノウにとってはお手の物だった。  貿易商が買い付けを済ませ、王都に戻るという情報を得たスノウは、先回りして貿易商が現れるのを待っていた。  ようやく王都の近くまで戻って来た貿易商の馬車を見つけたスノウは、暗闇の中襲いかかる。  馬車に向かって炎を纏った魔石を投げつけ、馬を殺し馬車を火だるまにした。  突然の事に慌てる護衛の傭兵も、容赦なく斬りつけた。  燃え盛る馬車の中から出て来た貿易商の男にも、スノウは刃を向ける。  無防備に震え殺されるのを待つだけだと思っていた貿易商が、ボウガンを持っていた事だけは誤算だった。  至近距離で矢を放たれ、スノウには避ける間もない。  矢が左肩に突き刺さったのと、貿易商の首を跳ねたのは同時だった。  全てを屠ったスノウは、貿易商と傭兵の遺体を馬車と一緒に焼き尽くした。  完全に燃え尽きたのを確認すると、スノウはその場を離れ、安全な場所まで移動する。  肩に刺さった矢を無理やり抜こうとして、鏃に返しがついており、強引に抜くと周辺の肉まで引き裂かれると気付く。  スノウは矢を抜くのは後回しにして、王都に戻る事にした。  だが、馬を走らせていた時、遅効性の毒が回ってきた事に気付く。  下手に動くと毒の回りが速くなる。  そう悟ったスノウは、手持ちの毒消しを飲み、身を隠せる場所で休むことにした。  ちょうど今夜は月明かりがさしていて、魔物の動きも沈静化している。  森の中に逃げ込んだスノウは、そのまま毒が消えるのを待つことにしたのだが……  間もなく全身に回った毒に冒され、意識をなくし倒れ込んでしまった。    

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