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第17話 俺の首輪を外してください(スノウ視点)
カイと別れたスノウは、使用人用の出入り口から屋敷の敷地に入ると、いつもと同じように建物の裏手に回り、二階のバルコニーへと跳躍する。
着地した時、スノウの足元はカクンと揺れ、苦痛のうめき声が漏れてしまった。
「ウグッ」
それでも歯を食いしばり、再び飛び上がる。
やっとの思いでスノウは、三階のオーナーの部屋へ続くバルコニーまでたどり着いた。
「スノウホワイト?」
スノウに気付いたオーナーが声上げた。
「戻るのが遅れ、申し訳ありません」
「ああ、いいのよ。分かっているわ。お母様のお願いを叶えてくれた事。いい子ね、可愛い私のスノウホワイト」
スノウは何も答えられなかった。
子供の頃は、オーナーにこうして褒めて貰えるのが嬉しかった。
オーナーを喜ばせたい。
幼い子供だったスノウは、その一心でオーナーの言う事に従ってきた。
擬似的親子でも、オーナーはスノウにとって群れの一員だから。
狼獣人にとって群れは家族であり、孤独を癒す運命共同体なのだ。
群れを失った狼獣人は、孤独に耐えきれず死んでしまう。
スノウの本当の父親のように。
だからスノウはオーナーという群れを、失うわけにはいかなかった。
スノウは獣人奴隷で、オーナーが可愛がってくれるのは、亡き息子代わりのペットだから。
そう気付くまで、何年もの時間がかかってしまった。
オーナーにとって都合の良い愛玩動物だと、幼い子供だったスノウには、認められなかったのだ。
でも今は……
「お母様のお願いを叶えてくれたご褒美に、なんでも好きな物をあげるわ」
上機嫌のオーナーに、スノウは思い切って告げた。
「お母様……俺の首輪を……外して下さい」
従順な息子のスノウが、まさかそんな事を言い出すとは思わなかったのだろう。
オーナーは酷く驚いた様子だった。
「それは駄目。突然何を言うの? その首輪は、お母様とスノウの家族の証じゃない」
「首輪がなくても……俺はお母様の言う事を守ります」
「困った子ね。首輪だけは駄目。他の物にしなさい」
これ以上食い下がれば、オーナーの機嫌が悪くなりそうだと感じたスノウは、首輪は諦める。
(やっぱり……駄目だったか……)
オーナーの執着心の強さは、スノウにはよく分かっていた。
(仕方がない……)
他の物と考えて、真っ先に金が浮かんだが……
オーナーの指に輝く大粒のアレキサンドライトを見つけて、目が止まった。
「お母様の指輪……」
「ああ? これね。これが欲しいの? お母様の指輪を欲しがるなんて、可愛い子ね」
上機嫌になったオーナーは、喜んでアレキサンドライトの指輪をスノウに手渡した。
オーナーの元を去ったスノウは、屋敷を出てカイの元へと戻って来た。
「大丈夫か? スノウ、顔色が悪い……」
「カイ……」
カイの顔を見た途端、安心したのかスノウはふらついてカイに抱き支えられた。
「帰ろう」
スノウはカイに支えられて馬に乗る。
馬を走らせようと手綱を握ったカイに連れられて、スノウはカイの店に戻った。
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