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第18話 スノウの隠れ家

 店にスノウを連れて戻ったカイは、ほっとしていた。これでスノウをゆっくり休ませる事が出来る。 「今日は出歩いて疲れただろう? ゆっくり横になっててくれ」  スノウを寝室のベッドまで連れて行ったカイは、キキにお茶を用意して貰おうと部屋を出て行こうとした。  その手をスノウが掴む。 「カイ……これを……」  スノウはオーナーから貰ったばかりの、アレキサンドライトの指輪をカイに渡してきた。 「これは……」  受け取ったカイは、瞬時に脳裏に浮かんだ映像に、この指輪が魂魔石(ソウルイーター)だと気付いた。 「どうしたんだ? これは……魂魔石(ソウルイーター)じゃないか」 「ご主人様から貰ってきた。仕事を頑張ったご褒美。カイにあげるよ」 「ご褒美って……」 「貰ってくれる?」 「……駄目だ、こんな高価な物をタダでなんか貰えない。いくらだ? 金なら払う」 「助けて貰ったお礼だから、気にしないでよ」  スノウはそう言って穏やかに微笑む。 「……どうして? スノウだって金が必要だろう? そんなボロボロになるまで働いたんだ。自分の為に必要な物を貰えば良かったんだ。何で俺の為に……」 「俺にとっては、カイが喜んでくれる方が嬉しい」 「スノウ……」 「ね、受け取って」  スノウに穏やかな目でじっと見つめられると、カイは断る事が出来なくなる。  「……わかった。ありがとう」  カイはスノウの気持ちを、素直に受け取る事にした。  それでも、このままではいけない気がして、カイはスノウの右手を掴む。 「え……カイ?」  カイの手から流れ込んだ魔力が、光となってスノウの隷従の腕輪を包み込む。  輝き出した隷従の腕輪は、光が収縮するとカチリッと小さな音を立てた。  スノウが触れると隷従の腕輪は、簡単に外れてしまった。 「俺からのお礼だ」 「カイ……ありがとう」  スノウの目にうっすらと涙の膜が見えた。    カイの店でスノウは1週間程休むと、ほぼ体は元通り回復していた。  カイと違って獣人のスノウは、体が元々丈夫なんだろう。  この日カイはスノウに連れられて、初めてスノウの自宅に招かれた。  スノウの自宅は平民街の外れにある小さな石壁の建物で、とても質素でこじんまりとしていた。 「まるで隠れ家だな」  思った事を正直にカイが呟くと、スノウは苦笑する。 「本当に隠れ家なんだ。ご主人様も知らない」 「え?」  思わずカイが驚くのも無理はなかった。  獣人奴隷が飼い主の管理下から離れる事はありえない。 「俺は愛玩動物だから……特別なの。ご主人様にとって、俺は息子代わりのペットだから」  いつものチャラそうな顔でスノウは言うけれど……カイは何も言えなくなってしまった。 「カイ……そんな顔しないでよ。俺はカイがいてくれるだけで良い」  突然スノウに抱きしめられて、カイは驚く。 「スノウ?」 「カイ……このままずっと離したくないな〜」  ギュッとカイを抱きしめたまま、スノウは軽い口調でそう言うけれど。  その表情は酷く思い詰めているように見えた。  カイはそっとスノウの背に腕を回す。 「俺も……」  スノウの胸元に顔を埋めて、カイが呟く。  衣服越しにスノウの心臓の音が聞こえて来た。  チャラいように見えて、少しは緊張しているのか、鼓動が早い。  氷のようだと言われるカイとは違う、温かい体。  カイにとってこんなにも近くで、温もりを与えてくれる人は、初めてかもしれない。   カイの言葉に目を見開いたスノウは、嬉しそうに微笑む。  そしてカイの髪に額にキスを落としてきた。 「くすぐったい」  そう言ったカイの唇は、スノウの唇で塞がれて、それ以上何も言えなくなる。  やんわりと唇を食んでいたスノウの舌が、カイの口の中に差し込まれて、怯える間もなく優しく口内を撫でられた。  うまく息継ぎが出来ないカイを、スノウはあやすように導いていく。  長い口づけを終え力が抜けたカイは、スノウのベッドの上にそっと押し倒された。 「カイ……」  熱の籠もった眼差しで見つめられて、カイはスノウが自分を求めているのだと察してしまった。 「あ……お、俺は……こういう事……初めてで……どうしたら良いか……」 「初めてなの? 本当に?」  驚いたのか、スノウに食い気味に問われて、カイは小さく頷く。 「嬉しい。大事にする。優しくするからっ」  覆い被さってきたスノウに、カイはギュウギュウ抱きしめられる。 「カイ……愛してる……」  耳元で優しく囁かれて、カイはスノウに身を任せた。

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