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第19話 遊びで良いから*

「カイ、力を抜いて。大丈夫だから」  ベッドの上で唇を塞がれ、緊張で強張っていたカイの体も、次第に力が抜けていく。 「ふ……んっ……ん……」  スノウの柔らかい舌で歯列を撫でられ、怯えて縮こまる舌をやんわりと触れられると、酸欠を起こしたみたいに、カイは何も考えられなくなっていく。 「んんっ」  キスに夢中になっている間にスノウの不埒な手は、器用にカイの衣服のボタンを外してしまった。 (キスがこんなに気持ち良いなんて……知らなかった)  ぼんやりとした頭で、カイは考える。 (スノウだから?)  スノウだから、気持ち良いのだ。  そう理解した頃には、カイの衣服は剥ぎ取られ、ベッドの周囲に散らばっていた。 「カイ……」  見上げた先には、獰猛な獣の本性を現したスノウが、カイを見下ろしている。  まるで見せつけるように衣服を脱ぎ去るスノウの体は、しなやかな筋肉で覆われていて、普段の軽薄な男の顔はどこにもなかった。 (……喰われる……)  本能的な怖さを感じて、カイの背筋をゾワリとした悪寒が走る。  狐のカイは狩猟動物であり、狼のスノウに捕食される生き物だから。 (怖い) 「大丈夫だから。怯えないで」  普段の強気なカイからは想像出来ない位、カタカタと小刻みに震える体を、スノウはやんわりと抱きしめてきた。 「大丈夫。大丈夫だよ、カイ」 「スノウ……俺はっ」 (ずっと一人で、誰にも関わらず、生きていくのだと思っていた) 「大丈夫だから」  スノウに抱き起こされ、ポンポンと背中を優しく撫でられる。 (こんな風に、抱きしめて欲しかったのかもしれない) 「スノウ」  カイはスノウに縋り付くと、ポロポロと涙を零した。 「カイ、好きだよ。カイが好きなんだ。俺のものになって」  涙で滲んだ目で見上げたスノウの顔は、とても穏やかで優しい。 「俺も……スノウが好きだ」 「うん、ありがとう。愛してる」  再び唇を塞がれ、カイはベッドに縫い付けられた。  スノウはカイの頬に額に柔らかいキスを落としながら、カイの耳たぶを喰む。  身を捩ったカイの体にキスマークを刻みながら、スノウは右手でベッドの隅っこから何かを取り出した。 「な……に?」  焦点の定まらない目で、スノウが摘む何かをカイは見つめる。 「これはカイを気持ち良くする為の物」  ニヤリとあくどい顔をして、スノウは摘んでいた小瓶から、トロリとした香油を取り出した。 「男は濡れないでしょ? カイとはいっぱいしたいし。下手って思われたくないから」  何かとんでもない事を、カイは言われた気がしたけれど、酸欠気味の頭では上手く理解できない。  ぼんやりとしてる間にスノウはカイの下腹部に移動すると、カイの片足を持ち上げた。 「ちょっ!!」 「暴れないの。じっとしてて」  驚き逃げ出しそうになるカイをあやしながら、スノウはカイの両足の間に収まり、広げた足の間でヒクヒクと震える孔穴に指を這わす。 「そんなとこっ!」 「大丈夫だから」  尻の間に隠されていた襞を撫でられ、カイは恥ずかしさのあまり身を固くする。 「やだぁ……」  泣き出したくなったが、スノウは止めてくれなかった。  ヌルリとした香油を纏ったスノウの指が、ツプリとカイの襞に差し込まれる。 「うっ」  異物感に思わずうめき声が漏れたが、スノウの指の動きは止まらなかった。  クチュクチュと耳を塞ぎたくなるような音を立てて、スノウの指がカイの腹の中で動き回る。  一本だった指が二本に増え、襞を大きく割り開かれると、カイは悲鳴をあげた。 「もうやだぁ!!」  ヒッヒッと泣き出したカイを見て、スノウが指を引き抜く。 「ごめん、もうちょっとだけ我慢して。もう少し慣らさないと、危ないから」  スノウはカイの頭を優しく撫でて、落ち着かせる。  ようやくカイが泣き止むと、スノウの指が再びカイの中に入って来た。 「ううっ」  目を瞑り異物感に必死に耐えていたカイは、突然ヌルリとした熱いものに、怯えて縮こまっていたカイの雄が包まれ驚く。 「スノウっ! 何やってっ!」  信じられない光景に、カイは頭が真っ白になった。  スノウはカイの勃ち上がった陰茎をパクリと咥えていたのだ。  ヌチュリとカイの先走りと、スノウの唾液で濡れた陰茎が、スノウの口から零れ落ちる。 「カイは気持ち良くなってて」  再び雄を咥え込まれ、スノウの舌と粘膜で念入りに愛撫されると、カイの雄はパンパンに硬くなってしまう。 「もう駄目だから!! スノウ!」  黒い茂みから勃ち上がる雄を口淫され、腹の中をスノウの指で犯される。  必死にカイはスノウを引き剥がそうとしたが、力の入らない手はスノウの銀髪をかき混ぜるのが精一杯だった。 「嫌っ……もうやめっ……ああー‼」  突然訪れた絶頂に、カイはスノウの口の中に吐精してしまう。  目の奥で火花が散り、乱れた呼吸で頭の中が真っ白になった。 「はぁ……はぁ……」  息も整わないカイを見下ろしながら、カイの精液を全て飲み干したスノウは、ペロリと濡れた唇を舐めた。 「もう大丈夫かな」  クッタリと力の抜けたカイの体から指を引き抜いたスノウは、カイに見せつけるように自身の雄を手で扱く。  スノウの綺麗な顔から想像出来ない程、硬く勃起した雄は凶悪な姿だった。  弛緩したカイの両足を開いて、スノウはカイの襞の中にパンパンに張り詰めた雄を差し込んできた。  香油で滑りを帯びた襞はやんわりと口を開け、スノウの雄を咥えていく。 「あぁ!」  腹の中を押し広げられて、カイは悲鳴をあげた。 「痛い? 大丈夫?」 「痛く……ない」  必死に耐えるカイの頬にキスを落としながら、スノウはカイの中を穿いた。 「ひっ」 「全部入ったよ。分かる?」 「うん」  コクンと頷いたカイの頬を、スノウの温かい手が撫でた。 「もう少しだけ、このままで」  カイをきつく抱きしめながら、スノウはじっとカイの体が馴染むのを待っていてくれた。  ようやくカイの体が落ち着いた頃、スノウが耳元で囁く。 「動くよ」  それを合図に、カイの体はスノウに揺さぶられた。 「あっ、ああっ……あんっ」  スノウに腹の中を穿かれ、蹂躙されて、必死に耐えていたカイだったが、我慢できずに嬌声が零れてしまう。 「んぁ……もう、やっ」  甘い声を上げ、シーツを握りしめながら身悶えるカイを見て、スノウの目の色が変わった。 「カイ! はぁ、たまらない」  何度も何度も肉棒を打ち込まれ、腹の中を叩きつけられて、スノウに弱い所を犯されたカイは、我慢できずに射精してしまう。 「ひゃぁ! 出ちゃっ! 出ちゃうっ!」  ピュッピュッと勢いよく飛び散ったカイの精液が、互いの腹を白く汚していく。  スノウはそんなカイの姿に興奮したのか、カイを揺さぶる動きが強くなった。  濡れた水音と、肉が打ち込まれる音が激しくなる。  ギシギシと軋むベッドと、濃厚な汗の匂いで包まれていく。 「ああぁ! やぁっ! いっちゃう!! スノウ! スノウ‼」  必死にスノウに縋り付き、助けを求めてカイはスノウの名を呼び続けた。 「イクッ!! いっちゃう!!」 「俺もっ! イクッ!! カイ! 一緒にいこう!!」 「ああぁーっ!」  カイが悲鳴を上げ白濁を吹き上げると、スノウもカイの腹の中に射精した。  濃密な性の匂いを漂わせて、カイはスノウと抱き合ったまま、ベッドに沈み込んだ。  何度も何度もスノウと交わり、疲れ切ったカイは、スノウの腕の中に抱き込まれていた。  どれくらいの間、睦み合っていたのか、暗い窓の外から月明かりが差し込んでいる。  もう指一本動かせない。  スノウの心臓の鼓動を聞きながら、目を閉じようとした時だった。 「カイ、俺の番になって欲しい」  突然スノウが呟いた。 「え?」 「番になって欲しいんだ」  見た事がない位真剣な眼差しで、スノウはじっとカイを見つめていた。 (番……)  獣人にとって番とは、生涯を共にする伴侶の事だ。  人間が婚姻関係を結ぶ事と同じ。 (プロポーズ……された……)  スノウの表情は緊張で強張っていて、軽薄な姿は微塵もない。  本気なのだと、伝わってくる。  カイはどうしたら良いのか戸惑い、すぐには答えられなかった。  しばらくしてようやく口から絞り出した言葉は、とても苦しいものだった。 「今のままじゃ駄目なのか?」  カイにはどうしても受け入れられない、深い事情があった。 「俺は……スノウとは……住んでる世界が違う」 「俺が獣人奴隷だから?」 「そういう意味じゃないっ」  スノウの問いにカイは即答する。  沈黙してしまった二人のうち、先に口を開いたのはカイだった。 「遊びなら……付き合うから。本気になるのはやめてくれ」 「何で? もしかして俺が遊びだと思ってるの? 俺は本気だ!」 「……スノウ……」  スノウの気持ちが痛い程伝わってきて、カイはどうしていいか分からなくなる。 「俺が……カイを利用するつもりで近づいたから、信じられないんだよね? ごめん、俺が悪かった……」 「スノウ……そうじゃない」 「残りの隷従の首輪は、俺は自分で何とかするから。絶対に自由になってみせる」 「スノウ……俺の事は遊びで良いから。それがお互いの為なんだ。本気にならないで」 「……俺は必ず自由になってみせるから。カイ……信じて待ってて」  スノウの意思は固い。 「もうこの話は……終わりにしよう」  カイはそれきり口をつぐむと、スノウに背を向け毛布にもぐり込む。 「カイ……」  スノウはそんなカイを背中から抱き込む。  スノウの暖かさが、今のカイにとっては辛かった。  もう間もなく夜が明けるという頃、目を覚ましたカイはそっとベッドを抜け出した。  脱ぎ散らかった衣服を身に纏い、眠っているスノウに気付かれぬように、スノウの家から出て行った。  自宅に戻ると、心配していたのかキキとララが起きて待っていた。 「カイ様……」  カイの様子がおかしく、元気がないと気付いたのか、キキはそれ以上何も聞かなかった。 「もう少し寝かせてくれ」  それだけ言い残すとカイは自室に籠もる。  ベッドで横になっても、眠れそうになかった。

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