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第21話 ソウルイーターのピアス(スノウ視点)
早朝囀る野鳥の声でスノウが目覚めると、隣で寝ていると思っていたカイの姿はなかった。
「カイ?」
カイが寝ていた場所は温もりが消えていて、転がっていた筈の衣服も無い。
「カイ……」
スノウに気付かれぬよう、カイは抜け出したのだろう。
きっと自宅に戻ったのだ。
「カイ……どうして?」
やっと捕まえたと思った途端に、腕の中からすり抜けて消えてしまったカイに、スノウは寂しさとやるせない気持ちが溢れてくる。
(カイを利用しようなんて考えた罰だ……)
本気だと告げても信じて貰えないのは、完全に自業自得だ。
(でも……諦められないよ……)
カイはスノウが、初めて本気で好きになった人なのだ。
(俺の群れは……番は、カイしかいない!)
どうしたらこの気持ちは本物だと、理解して貰えるのか。
「カイともう一度ちゃんと話さなきゃ……」
本当は今すぐカイの店に向かい、カイと話がしたい。
(でも……今日は駄目だ)
今夜はオークションが開催される日で、スノウは日中から会場内の警備に当たらなければならないのだ。
カイの店に様子を見に行くことは出来ない。
だが時間を置いた方が、カイの気持ちも落ち着くかもしれない。
そう思い直して、スノウは出かける準備を始めた。
この日のオークション会場は、朝からちょっとした騒ぎで慌ただしかった。
出品物が逃げ出したと、従業員達がバタバタと動き回っていたのだ。
こういった逃走騒ぎはよくある事で、スノウは逃げ出した獣人奴隷の子供や、幻獣等が連れ戻される場面を何度も見てきた。
オーナーの愛玩動物でしかないスノウには、出品物に手を出すことは許されていない。
所詮奴隷でしかないスノウには、誰も助ける事は出来ないのだ。
だから今日も事務的に、オークション会場の警備をする。
オーナーの手から逃れ、自由になる迄、スノウは従順な奴隷のふりを続けるつもりだった。
会場内を巡回していた時だった。
目の前を小さなリスのような動物が横切って行く。
「カーバンクル?」
(これが逃走騒ぎの原因か?)
カーバンクルはスノウの姿を見つけると、突然方向転換してスノウに向かって走って来た。
その見覚えのある姿を見て、スノウは驚く。
「もしかして、ララか?」
(カイの使い魔のララがこんな所にいるなんて、どういう事だ?)
ララはスノウを見上げると、まるで付いてこいと言いたげに走り出す。
その後を追ってスノウは走り出した。
オークション会場の入り口付近まで来ると、ララは急に立ち止まる。
「ここは?」
地面には複数の争ったような足跡が残されていて、血のような跡も見えた。
キラリと陽の光に反射されて、緑色の小さなピアスが転がっていた。
スノウは咄嗟に拾い上げる。
「これは……魂魔石 ? まさかカイの?」
カイの耳にも似たようなピアスがあった。
「何があったんだ?」
嫌な予感に、ピアスを掴む指が震え出す。
(カイの身に何かあったんだ!)
カイを探して走り出したスノウの肩に、ララが飛び乗る。
スノウはカイの姿を求めて、会場中を探し回った。
「チッ、あのカーバンクル! どこに行きやがった!!」
カイの姿を探して、会場内を必死に走るスノウの耳に、気の荒い男達の声が聞こえた。
「まぁまぁ、そう怒るなよ。それよりこれ見ろよ。こんなに大粒のアレキサンドライト、こりゃ高いぜ」
「あれ、ピアス片方しか無いのか?」
「おかしいな、どこにいった?」
従業員用の控室の中から聞こえてくる声に、スノウはギリッと奥歯を噛み締めた。
バンッと勢い良くドアを開けると、中にいた男が二人、驚いた顔をしてスノウを見つめる。
「そのアレキサンドライトはどうした?」
スノウの問いに男達は、顔を見合わせてニヤリとほくそ笑む。
「さあな」
「お前こそ、そのカーバンクル! こっちに寄越せよ!! そりゃ売り物だ!!」
「ふざけるな!!」
スノウは怒声を上げると、男の一人に掴みかかる。
「カイをどうした? それはカイのアレキサンドライトだろう? どこで手に入れた?」
男達はニヤニヤと意味深な微笑みを浮かべる。
何も答える気がないと判断したスノウは、男の一人を殴りつけた。
床に転がり失神した男から、スノウはアレキサンドライトを取り戻す。
「答えろ、カイはどこだ?」
もう一人の男を睨みつける。
「ハッ、知るかよ!! 奴隷風情が! せいぜい足掻け!!」
唾を吐き捨てた男を、スノウは腕で薙ぎ払う。
壁にぶつかった男は、ぐったりとして動かなくなった。
「くそっ!」
スノウはその場を飛び出した。
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