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第23話 お帰りなさい
警備隊に見つからないように慎重に遠回りをして、カイはスノウに連れられて平民街にある魔石店に戻って来た。
店に戻るとキキが心配そうにして待っていた。
「お帰りなさい。カイ様、スノウさん。ララさんも」
「うん、ただいま」
「もうっ。カイ様も、スノウさんも、傷だらけじゃないですか。無茶しないで下さいね」
キキはボロボロのカイとスノウの姿を見て、怒ったような、それでいて泣いてるような顔を浮かべている。
救急箱を手にしたキキは、手慣れた手付きでカイとスノウの傷を消毒し、手当てしてくれた。
「お洋服もそんなに汚して。洗い場に出しておいて下さい」
キキはそう言うと、カイとスノウに着替えを手渡す。
「ありがとう、キキ」
「え? キキちゃん。俺の分もあるの?」
「はい。カイ様のお父様のお洋服です。カイ様のお洋服では、スノウさんには少し小さいので。良かったら使って下さいね」
「ありがとう、キキちゃん!」
感激してるスノウを、カイは微笑ましい思いで見つめていた。
「お腹が減ったでしょう? お二人共着替えたら、皆で晩ご飯にしましょうね。ララさんも」
キキはカイとスノウに何があったのかは、聞かなかった。
それがキキなりの思いやりだと、カイは知っている。
ここにはいつもの日常があって、それが何よりも幸せな事だと、カイは思った。
この日以来カイの店に居着いてしまったスノウは、今ではキキの後輩として愛想の良い店員をしている。
「いらっしゃいませ!」
カランコロンとベルが鳴り、店のドアが開くと、真っ先にスノウがお客を出迎える。
「可愛らしいお嬢様方、今日はどんな魔石をお求めですか?」
二人連れの女性客は、スノウに声をかけられて目を輝かせた。
眺めている分には美形のスノウだ。
女性客がときめくのも無理はない。
「こちらの品は、当店自慢の魔石ですよ。店長自ら作り上げた人工魔石でして」
「ええっ、店長さんの手作りなの?」
「うちの店長、ああ見えてギルドでは上級魔術師として有名なんですよ」
チラリと目線を向けられて、店の奥にいたカイもドキリとする。
「これにする!」
「私も!」
「お会計はあちらですよ」
さり気なくカイにウインクをして、スノウは会計カウンターにいるキキの元へ、女性客達を案内する。
「ありがとうございました!! レディ達また来てね〜」
会計を終えて店から出て行く女性客に手を降って、スノウは見送っている。
「相変わらずチャラいんだよな……」
思わずカイは呟く。
スノウの接客のお陰で、若い魔術師達が来店するようになり、カイの魔石店の売上は上々だった。
オークション会場の顛末と、スノウの飼い主のその後は、店に通ってくる獣人奴隷の子供から、カイは聞いていた。
オークション会場に突入した警備隊によって、その場にいた客も従業員も纏めて拘束され逮捕されたらしい。
出品物は全て押収され、獣人奴隷の子供達も保護されたそうだ。
スノウの飼い主であるオーナーは、警備隊が捕獲しようとした時には既に事切れていたそうだ。
その姿は異様で、胸に銀の杭が刺さった状態で見つかった。
(呪いが本人に返ったんだ……)
カイがスノウの体から引き抜いた杭が、オーナーの体に刺さったのだと、カイには分かった。
スノウは飼い主であるオーナーの最期を聞き、複雑な表情をしていたが、今では吹っ切れたのか、元気に店員をしている。
カイはふと思いつくと、スノウに声をかけた。
「スノウ、こっちに来てくれ」
「何? どうしたの?」
カイは自分の首に下げていた魂魔石 のペンダントを外すと、スノウの首に掛けてやった。
「これは?」
「俺の父の遺品だ。きっとスノウの事を守ってくれる」
「……そんな大事な物……」
驚くスノウにカイは微笑む。
「俺には母の残したこのピアスがあるから」
感極まったのか、スノウはカイに抱きついてきた。
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