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第6話 土曜日
六月十五日土曜日。
二度寝から目が覚めるとカナタの姿はなかった。
時刻は七時過ぎ。
キッチンの方から物音が聞こえてくる。
ベッドから起きてリビングへと向かうと、カナタが食事の支度をしていた。
「おはよー」
と、カウンターキッチンの向こうから声が聞こえてくる。
「あぁ、おはようカナタ」
答えて僕は、冷蔵庫から麦茶が入ったボトルを取り出した。
平野の多くが水没してしまったため、食糧自給率が低下。
それでも米の自給率は百パーセントだし、細々と小麦の生産もある。
畜産も無事だけどエサの輸入が一時激減し、肉の値段が高騰した頃もあったらしい。
そのため肉よりも魚の方が身近な食材になっていた。
旧時代にグンマで魚が中心になるなど考えられなかっただろう。
だから今日の朝食も魚料理だ。
焼き魚に白いご飯、お吸い物と卵焼き。
カナタが子供の頃に自分で家事をやりたい、と言い出して教えたが、ここまでうまくなると思っていなかったしこんなに積極的になるとも思っていなかった。
「今日、スーパーに買い物ね。あと俺、服見に行きたい!」
「服……あぁ、暑くなってきたものな」
「うん、俺去年よりでっかくなってて去年の服ちょっときついんだよね」
笑顔で言われ、僕はハッとした。
確かに去年より、カナタは背が伸びている。
だけど服の大きさにまで気が回っていなかった。
僕は首を振り言った。
「ごめん、気が付いていなかった」
「あはは、大丈夫だって。だから今日服買いたいんだけどいい?」
「あぁ」
頷き答えると、カナタはぱっと嬉しそうな顔になった。
朝食の後洗濯や掃除を済ませて、十時過ぎにカナタと一緒に家を出た。
「あっついなー、外」
「だからちゃんと帽子を被れよ」
手に持った焦げ茶色の帽子で自分を仰いでいるカナタにそう声をかけると、
「はーい」
と返事をして、帽子を被った。
交通手段は基本バスや電車だが、買い物、となると荷物が増えるため車が欲しくなる。
町ごとにミニソーラーカーのレンタルが行われていて、免許があって手続きをすれば借りることができる。
晴れていないと使えないし、スピードも時速四〇キロ程度しか出ないため本当に近隣で利用するしかできないが。
三時間から借りられるので地域の足となっていた。
「車借りるの?」
「あぁ」
「今日の車どんなかなぁ」
などとカナタが声を弾ませる。
各町にあるソーラーカーはその町の工場のこだわりが出ていて、謎デザインのものが存在する。
木目デザインのものや漆塗り、雷モチーフの車など、各町で性能やデザインを競い合っている、という噂がある。
レンタカー屋の受付には、五十は超えているであろう初老の男性が、ちょこん、と座り本を読んでいた。
彼は僕らに気が付くと、にこにこっと微笑み言った。
「やあ、いらっしゃい。レンタルですか?」
「はい、お願いします」
僕が答えると、受付の男性は僕に受付表を差し出した。
住所と名前、電話番号を記入し使用予定時刻を記入する。
保険金を支払い、僕は鍵を渡された。
「はい、三番の車ね」
出された銀色の鍵を持ち、僕らは駐車場の方へと回る。
月に一度、食材などのまとめ買いのためにレンタカーを利用するが、その度に車体デザインが変わっているのが常だった。
そんなことになるのは、レンタカー屋の多くを車両整備工場が運営しているせいだろう。
駐車場に停められている車は、どれも昔の映画で見たような、丸いフォルムのものだった。
動物でもモチーフにしているのか、焦げ茶色や黄色といった色をしていてなにやら模様が描かれている。
「なにこれ可愛いー!」
と、カナタが言いながら焦げ茶色の車に近づいていく。
その車が今日、僕らが借りる予定の車だった。
焦げ茶色ベースに水玉のような模様が描かれている。三毛猫でもイメージしているのだろうか。
確かに可愛いが、目立ちすぎるだろう。
まあこれなら盗まれる心配はないだろうけれど。
僕は車に近づき鍵を開け、中へと乗り込む。
二人乗りで、後ろに荷物を載せるスペースがあるだけの車で、身長が高いカナタには少々窮屈だあろう。
クーラーはついていなくて、小さな扇風機がついている。
「とりあえずまず服を買いに行こうか。他に欲しいものは」
「えー、わかんないけどあったら言うよ!」
「わかった。お昼、外で食べる?」
月に一度のお出かけの時はいつも外食をするからそう言っただけなのだが、カナタは嬉しそうな顔をして頷いた。
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