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第14話 葛藤
僕はカナタの肩を掴み、力を込めて強い口調で言った。
「やめるんだ、カナタ。僕はこんな事したくない」
すると、カナタは悲しげな目になり僕を見つめる。
その目に僕は思わずたじろぎ、口をぎゅっとむすんだ。
「なんで? 知らない誰かとは寝るのに俺とは嫌なの?」
そう問われると二の句を継げなくなってしまう。
好きで抱かれてきたわけじゃない。
なのに……まさかカナタにそんな感情を抱かれるなんて。
ただ僕は、カナタが僕の元から静かに旅立ってほしいだけなのに。
黙り込んだ僕の肌を、カナタが撫でていく。
「あ……だめ、だから……カナタお願い、だから……」
もう、僕が何を言っても届かないだろうけれど、僕はなんとか声を絞り出した。
「やだ。だって音耶と俺、ひとつになりたいんだもん」
苦しげな声で言い、カナタは僕の胸に口づけた。
わざと音をたてて吸い上げられ、そこから小さな快楽が生まれる。
「ん……あぁ……」
感じたくない。なのに身体は敏感に反応してしまう。
「すっげー音耶の声色っぽい。ねえ、その声もっと聞かせて?」
その言葉のあと、カナタは僕の胸の飾りにがぶり、と甘く噛みついた。
「あぁ……!」
思わず背を反らし、声を上げる。
僕の身体は、痛みを快楽と感じるように覚えていて、噛みつかれると痛い、よりも気持ちいい、という感覚のほうが先に来てしまう。
「へえ、乳首噛まれるのって気持ちいいんだ」
楽しそうに言い、カナタは僕の乳首をぺろぺろっと舐め、僕の腹を撫でた。
「う、あ……あぁ……」
なんて浅ましい身体なんだろう。
長く娼夫をやってきた身体は、簡単に快楽を拾い上げて僕から抵抗する意思を奪い去ろうとする。
カナタとこんなことしたくないのに。
逃げる術が見つからない。
受け入れてしまえば楽だろうか。
快楽に身を委ねてしまえば、嫌悪感も拒絶感も無くなるだろうか。
カナタの言う通り、知らない誰かに抱かれてるのだからカナタを拒否するのはおかしい?
僕が葛藤している間にも、カナタの手は止まらず僕を煽っていた。
ペロペロ、と胸を舐めた後腹を舐めて、どんどん下へとおりていく。
そして手が僕の寝間着のズボンにかかったとき、僕はその手を震えながら掴んだ。
「音耶?」
悲しげな瞳に僕の顔が映る。
抵抗なんて無駄だとはわかっている。とはいえこのまま抱かれるのも嫌だ。
「……準備……してくるから……」
消え入りそうな声で言うと、カナタは小さく首を傾げた。
「準備?」
「あぁ……だから、少し時間をくれないか?」
「ねえ、そうしたら音耶、俺にくれるの?」
まっすぐに見つめられ、僕は頷き答えた。
「うん……男同士は準備しないと、ダメ、だから」
そう告げると、彼はゆっくりと僕の上からどいた。
風呂で準備をして、服を手に取りそれをぎゅっと掴む。
どうせ脱ぐのだし、着ても意味はないだろう。
そう思い、下着だけを身に着けて、服は手に抱えて寝室へと戻る。
寝室の扉の前に立ち、僕はじっとそれを見つめた。
この扉を開いたら、もう後戻りはできない。
カナタと出会ったのは十二年よりも前。
一緒に暮らして十二年。学校行事にも参加してきたし、保護者であろうとしてきたのに。
なんでこうなるのだろうか。
いつからあの子は、僕にそんな感情を抱いていたんだろう。
いや、思い返せばいくつかそんな兆しはあったのかもしれない。
僕の匂いが好きだ、と言ったり、ずっと一緒に寝たがったり。
そんな小さなフラグを僕はずっと見逃してきた。いや、見たくなかったんだ。
カナタもまた、僕を神聖視して穢してきた異形と一緒だなんて思いたくなかったのに。
「カナタ……」
名前を呟いたとき、ゆっくりと向こうから扉が開いた。
そこにいたのは、裸になったカナタの姿だった。
青白い肌に、程よく筋肉がついた身体。
そして最も目をひくのは、背中に生えた黒い二枚の翼だ。翼の内側には銀の筋のような紋様が浮かび上がっている。
カナタの翼は普段隠しているけれど、感情が昂ると出てきてしまうことがある。
彼は、僕の顔を見るとほっとしたよう表情になり、僕の手首を掴むとぐい、と引き寄せた。
「よかった……どっか行ったらどうしようかと思った」
不安げな声が、僕の心を揺さぶる。
「カナタ……」
震える声で名を呼ぶと、彼は僕の顔をじっと見つめ、余裕のない声で言った。
「もう、離さないから」
そして彼は僕に口づけた。
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