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第18話 仕事やめて?★

 その夜。  風呂から出て寝室へと向かうと、カナタの姿はなかった。  そのことにほっとするような、残念なような複雑な気持ちになる。  もしかして今日も……などと思い、僕は風呂で準備をしたから。  昨日みたいにローションを仕込みはしていないけれど。  って、僕は何を考えているんだろうか。  昨夜の行為を思い出すと、腹の奥が疼いてしまう。  元々セックスは好きじゃないはずなのに。僕は今、カナタとの行為を期待してしまっている。  その事実に僕は苦しさを覚えて思わず息を吐いた。 「音耶」  不意に背後から声が響き、後ろから抱きしめられてしまう。 「……カナタ?」  いつの間に現れたのか、振り返ると、上半身裸のカナタがそこにいた。背中に、黒い翼をはやして。  本当にわかりやすい。  だって、翼が見える、ということは感情が昂っている、ということだから。  どうやら僕の準備は無駄ではなかったらしい。  そのことにほっとしてしまう。  ……それは、けっして正しいことではないのに。 「音耶に、プレゼント買ってきたんだ」  嬉しそうな声音でカナタは言った。  ……プレゼント?  そんなことを言われたのは何年振りだろうか。  幼い頃は父の日といって絵を貰ったり折り紙を貰ったことがあったと思う。  それは、この部屋の引き出しにみんなしまってある。  カナタは握りしめた手を僕の目の前に持ってくると、手を開いてみせた。  そこにあったのは、黒いベルトのチョーカーだった。中央に銀色の羽根飾りがついている。 「これは……」 「音耶、いくらキスマークつけても痕つかないから。俺の音耶だって証、つけたくて」  俺の音耶という、無邪気な言葉を聞くと心が揺らぐ。  僕は誰かの所有物じゃない。なのにカナタに望まれて悦んでいる自分が、不思議でならなかった。 「何言って……」 「してくれるよね、これ」  言いながら彼は僕の首に口づけを落とす。  ちゅうっと音を立てて。   「カナタ……」  彼の名を呼び僕は再びそのチョーカーを見つめた。  あぁ、これは、首輪、ということか。  指輪でもなく、ブレスレットでもなく。チョーカーを選ぶところにカナタの執着心が現れているように思う。  拒否なんてできるわけがない。僕が、カナタを傷つけるようなこと、できるわけないのだから。  僕はカナタの手からチョーカーをとり、首に巻いた。 「嬉しいな。音耶が俺の選んだもの、つけてくれて」  耳元で囁いたかと思うと、カナタは僕の耳たぶを噛み、耳に舌を這わせる。  そこから生まれた小さな快楽に、僕は息を漏らした。 「あ……」 「しよ? 音耶。いっぱい気持ち良くするから」  あぁやっぱり。  今日も背徳の時間が始まる。  裸にされた僕の肌を、カナタの舌が這う。   「ん……あぁ……」 「やっぱり何にも残んないんだね。音耶って」  残念そうに言い、彼は僕の肌を吸い上げた。  ということは昨日、カナタによって痕がつけられた、ということだろうか?  そんな事しても無駄なのに。 「昨日、いっぱい痕、つけたのにな……」  そう呟き、カナタは僕の足を抱え上げて太ももにも口付けた。 「こうして痕、つくのに……すぐ消えちゃうんだ」 「う……あ……」  痕が消えようと、快楽は確かにあるし、痛みだって感じる。  カナタは太ももにキスしながら、僕のペニスに触れた。  それはすでに硬くなっていて、先走りをダラダラと流している。 「ちゃんと感じてるの、嬉しい」  カナタは僕のペニスを咥え、先端を吸い上げた。 「あ……あぁ……」  カナタの長い舌が僕のペニスに絡まり、裏筋を舐めていく。  そんな事するな、という想いが僕の中に生まれるけれど、そんな事を言っても無駄なことはわかってる。  だから僕は、喘ぎながら腰を振り、カナタの口の中を味わった。  舌先で先端が割られ、先走りが吸い上げられていく。 「んン……カナ、タ……」 「……音耶の声、すっげーエッチ。早く中挿れたい……」  余裕のない声で言ったカナタは、僕の尻に触れた。 「今日はローション、仕込んでないの?」  その問いかけに、僕は黙って頷く。  心のどこかでこれを期待しつつも、起こらないよう祈っていた結果だ。 「そうなんだ……じゃあ俺がここ、ほぐしてあげる」  と言い、カナタはベッドの横にある棚に手を伸ばした。  カナタは長い指にゴムをかぶせ、ローションが入ったボトルを手にする。  彼はそれを指に絡めると、僕の後孔に触れた。 「あ……」  指が、ゆっくりと中に入ってくる。  二本、一気に。  今までいくつものペニスを受け入れてきたそこは、難なくカナタの指を飲み込んでいく。 「中、柔らかい」 「う、あ……」  カナタはゆっくりと出し入れをし、何かを探るように内壁を撫でた。  きっと、前立腺を探しているのだろう。 「カナ……腹側の……もう少し……」  息も切れぎれに僕はその場所を伝えようとする。 「あぁ……これ? なんか膨らんでる」  そこに触れられたとき、僕は大きく背をそらした。  中がひくつき、カナタの指を締め付ける。 「これがそうなんだ……すっごい気持ちよさそう。音耶、いっぱいイかせてあげるからね」  言いながらカナタは前立腺をこつこつ、と叩いた。  するとそこからうまれた快楽が一気に脳へと達していき、僕はガクガクと腰を揺らした。 「うあぁ! そこ、だめぇ。おかしくなる、からぁ」 「なんでだめなの? すごい腰振って、気持ちよさそうだよ」 「う、あ、あ、あ」  だめじゃない、すごく気持ちいい。  ペニスからは先走りが溢れ出て、僕の腹を濡らしてる。 「いい……! カナタ……あ、あ、だめ、イく、イくからぁ」 「あぁ、そういう意味なんだ、ダメってつまり、気持ちいいってこと?」 「ふ、あぁ!」  返事の代わりに、僕は身体を震わせ精液を放った。  カナタの手でイってしまった背徳感と、快楽の波の中で呆然としていると、カナタの指がそこから抜かれた。  「あ……」  思わず切ない声を漏らすと、カナタは指からゴムを外して言った。 「そんな声聞いたら腰にくるよ」  カナタはゴムをゴミ箱に捨て、今度はペニスにそれを被せた。  そして僕に覆いかぶさると、うっとりとした顔で言った。 「大好き音耶」  言葉の後唇が重なり、彼の長い舌が僕の口に入ってくる。  僕はカナタの首に腕を絡め、自分からも舌を出して彼に答えた。  ぴちゃぴちゃと音が響き、そこから甘い痺れ生まれる。 「ん……ン……カナ……好き、カナタ……」  口付けの合間に、うわ言のように僕が言うと、カナタは嬉しそうに笑い言った。 「音耶……俺だけの物になって」  その言葉の後、彼は僕の後孔にペニスの先端をあてがい、ゆっくりと腰をうずめた。 「ひ、あ……」    先端が前立腺に触れると、カナタが腰を引く。  何をするのかと思っていると、カナタは前立腺を押しつぶすように腰を揺らした。 「カ、ナタ……そこ、イい……だめぇ」 「それ、イイってことなんでしょ? ねえ、奥とこっちどっちがいいの?」 「ン……あ、あ、あ……奥、奥突かれるの……好き、あぁ!」  僕が言い終える前に、カナタはぐい、と腰を進め最奥の結腸をこじ開ける。  その時、僕の頭の中が白く染まり、視界を星が散ったような気がした。 「結腸っていうんだっけ。調べたよ。音耶、そこ突かれるの好きなんて超変態じゃん?」  違う、そんなんじゃない、と言いたいのに言葉を紡げない。  実際、奥を突かれると快楽の波がひっきりなしにきて、その感覚が好きではあるから。  百も年下の少年……いや、成人したから青年だろうか?  そんな相手に変態とまで言われて中を抉られ、僕は悦んでしまっている。 「ねえ、音耶。仕事やめてよ。娼夫の仕事。俺、音耶が誰かに抱かれるの絶対に嫌だからさ」  嫉妬に満ちた声音で言い、カナタは僕の奥を突き上げた。 「え、あ、あ……」 「俺のお願い、聞いて?」 「う、あ……で、も……生活……あ、あ」  娼夫は生活のためにやっていることだ。  だからそう簡単にやめるわけにはいかない。そう言いたいのに、言葉にできなかった。 「じゃあ、いつ辞めるの? 俺が卒業したら辞めてくれる?」 「うぅ……あ、あ……もと、も……そのつも、り……奥気持ちいっ……! イくイくイく」  うわ言のように繰り返して、僕は思い切り背を反らした。 「やばい、俺も出る……」  裏返った声でカナタが言い、奥をこじ開けて腰の動きを止めた。 「あぁ!」  奥でカナタのペニスが膨らみ、ビクビクと震えているのがわかる。  カナタは幸せそうに目を細め、荒い息を繰り返して僕の首に触れた。 「裸にチョーカーだけってめっちゃエロい。それ選んで良かった……首輪みたいで音耶に似合うって思ったんだ」  そしてカナタは僕のチョーカーを撫でて、羽根の飾りに触れた。  あぁ、やっぱりそういうつもりだったのか。  これはカナタの、執着心と独占欲の現れなのだろう。  羽根の飾りもきっと、彼のもつ黒い翼の象徴なんだと思う。  こんなものしなくても、僕はどこにもいかないのに。   「音耶、今すっごいエロい顔してる。ねえその顔、俺以外には見せないでよ」 「カナ……あ……」  カナタは抜かずにまた腰を揺らし始める。  それを嬉しい、と思っている自分の浅ましさに嫌悪感を覚えるけれど、そんな想いはすぐに快楽の底に沈んでいった。

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