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第2話
十九歳になったばかりの清蓮 は、演舞場の控えの間で静かに自分の出番を待っていた。
清蓮は鏡の前で一つ深呼吸すると、身に纏う衣装を眺めた。
この日のために職人らが仕立てた豪奢な衣装は、薄絹を幾重にも重ね、胸元には金糸の繊細な刺繍が施され、その周りには小さな翡翠が散りばめられている。
腰には金絹を使用した華文模様の帯が巻かれ、長身で均整のとれた清蓮の体躯によく映えていた。
今日の衣装は清蓮の柔和で慈愛に満ちた顔立ちによく似合っていたが、見方によっては女性と見間違えてしまうだろう。
清蓮は凛とした空気を胸いっぱいに吸い込むと、心地よい高揚感と緊張感が全身に広がっていった。
「うん、今日は間違いなく、素晴らしい一日になる」
清蓮はそばにいた侍従たちに語りかけたつもりだったが、一人の若者が勢いよく戸を開け意気揚々と部屋に入ってきたせいで、清蓮の声はかき消されてしまった。
侍従たちの中には、この大事な時に何事かと眉間に皺を寄せる者もいたが、たいていの者は慣れた様子でその若者に一礼した。
若者も見知った侍従に軽く手をあげて応え、勢いよく長椅子に座ると、卓の上の清蓮の茶を一気に飲み干した。
清蓮は変わらず外の景色を眺めていたが、振り向かずとも誰が部屋に入ってきたのか分かっていた。
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