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第4話
当日、演舞場に招かれたのは、身元の保証された者とその家族であった。
清蓮 は身分を問わず招き入れたいと考えていたが、誰も彼もといかないことも分かっていた。
多少の妥協はともかく、それ以上に清蓮は人々と一緒にこの喜びを共有できることの幸せを噛み締めていた。きっと、みんな喜んでくれる、そう思うだけで、清蓮の頬は自然と緩むのであった。
そのことを知っていた友泉は、「良かったな」と自分のことのように喜んだ。
その一方で、清蓮の姿を見てこうも言った。
「それにしても、お前罪つくりだな」
「何の話だ? 」
清蓮は何のことやらと首を傾げる。
「いい加減、少しは自覚しろよ。今日のお前はまるで——傾国の美女じゃないか! 」
清蓮は目を丸くして驚いた。
「傾国の美女? ははっ……友泉、何を言うかと思ったら。私は男だよ、どこから見ても」
友泉 はいやいやと首を横に振ると、含み笑いを浮かべながら、冗談とも本気とも言えぬ言葉で清蓮をからかった。
「ここに来る間に、みんながどれだけお前のことを噂していたと思う? 女どもはお前目当てで色めきたっているし、男どもは男どもで——」
「はは。友泉、君の方こそ、いい加減勘弁してくれないか……」
清蓮は何のことやらと言いつつ、自分の容姿に対して、周囲の反応を知らないわけではなかった。自覚がないわけでもなかった。それでも、清蓮は自分の容姿に絶対の自信を持っているわけでもなかった。
清蓮は若さに似合わず謙虚というか、どこか年寄りじみているというべきか、奢り高ぶるといったことから無縁であった。
清蓮はただ両親から受け継いだものをありがたく受け入れているだけだった。
「私はね、みんなと一緒にお祝いできればそれでいいと思っているんだ。今日という日が無事に終わればいい。それだけだよ」
清蓮は立ち上がると侍従たちが再び部屋に入ってきた。清蓮はもう一度鏡の前に立つと、侍従たちが甲斐甲斐しく衣装を整えた。
すべての準備が整うと、清蓮は鏡に映る自分を見つめた。
そこには凜とした姿で佇む友安国の皇太子がいた。
「そうだな。お前なら上手くやれるさ」
「うん。ありがとう」
清蓮は友泉を見送ると、鏡に映る自分を励ますように大きく頷いた。
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