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第8話
舞台の周囲は護衛が配置されていたが、どうやら幼子は監視の目をくぐり抜け、舞台にいる清蓮 のところまでたどり着いたのである。
清蓮は駆け寄ってくる幼子に驚いたが、弾けるような笑顔で幼子を迎え入れた。
清蓮が幼子を抱き抱えると、固唾を呑んで見ていた人々からは、再び割れんばかりの歓声が巻き起こった。
一方、幼子の母親は恐る恐る舞台に上がると清蓮の前にひれ伏した。
子の無謀ともいる行いに、母親は俯いたまま顔面蒼白となっている。
幼子とはいえ、王族に気安く接することなど許されるはずもなく、問答無用で処罰されてもおかしくない事態だ。
しかし清蓮はそういったことには寛容、むしろ鈍感で、母親にも気軽に声をかけると、幼子を引き渡した。
母親は幼子を抱きかかえたまま、涙を流しながら何度も頭を下げた。
一部始終を見ていた人々は、清蓮の寛容な様にいたく感動し、演舞場は揺さぶられるほどの歓声と熱気に包まれた。
我らが皇太子は、美しく誉れ高いだけでなく、なんと慈悲深いことか。
演舞場のすべての人々は願わずにはいられなかった。
我らが皇太子に祝福を!
我らが皇太子に祝福を!
人々の極限に達した、異様なまでの熱気と興奮はおさまることを知らない。
誰もがこう思った。
皇太子殿下を近くで見てみたい。
もっと近くで!
もっと近くで!
誰が始めたわけではなかったが、強烈な願望は人々を盲目にさせ、自らの欲求を満たすべく、じりじりと皇太子の方へ向かっていく。
その動きははじめ穏やかな川の流れのように緩やかであったが、いつしか激流となって清蓮に襲いかかってきた。
ただならぬ状況に護衛も制止すべく動き始めた時には、何もかも手遅れであった。
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