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第11話
清蓮はまじまじとその男を見た。
(なんて綺麗な男 だろう……。こんなに綺麗な人がいるなんて、信じられないな。何をどうすると、このような見目麗しい御仁ができあがるのだろう……)
「殿下——」
清蓮は『殿下』と呼ばれ、現実に引き戻された。
清蓮は男に抱きかかえられていることを思い出し、さすがにこのままではいけないと思い男に声をかけた。
「えっと、君のおかげで助かったよ。あの……、大丈夫そうだから、下ろしてくれるかな? 」
「足を怪我している」
「怪我? あぁ、大丈夫、少し捻っただけだよ、歩けるから。下ろしてくれ」
「——それはできない」
男は清蓮の言葉を静かに退け、清蓮を抱きかかえたまま身動き一つしない。
「それに、みんなを助けに行かなきゃ! 」
「だめだ——」
「だめって、君、子供じゃあるまいし……」
「……」
男はこれ以上、何を言っても無駄と、口を閉ざしてしまった。清蓮が次の言葉を考えていると、男はそれを同意と受け止め、清蓮を抱き抱えたまま、控えの間へと歩き出した。
男は清蓮をまるで大事な宝物でも扱うように優しく抱え、清蓮を軽々と運ぶ。
その身のこなしは優雅でそつがない。
清蓮は見知らぬ男に抱き抱えられて、ただ恥ずかしさでどうにかなりそうだった。
だが、意外にも不快感はなく、むしろ心地良さが勝った。
清蓮は不意に遠ざかる演舞場に目を向けた。
演舞場の混乱はおさまりつつあったが、清蓮はやるせない気持ちになった。
「まさかこんなことになるなんて……」
清蓮は急に徒労感に襲われると、無意識に男の胸に頭をもたげ、目を閉じた。
男は立ち止まり、清蓮を見つめると、再び優雅な歩みで控えの間へ向かった。
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