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第16話
部屋には清蓮 と妹の名凛 だけとなった。
清蓮は長椅子に座ると、名凛もその横に座った。
「本当に無事で良かったわ。怪我はなかったのね? 」
清蓮は足を軽やかに上げ、すっかり治った足を名凛に見せた。
「ありがとう。足を少し捻ったんだけど、彼が治してくれたんだ。ほら、この通り! 」
清蓮はそう言うと、自分の言葉にはっとなり、急いで部屋を見渡した。
今になって自分を助けた男のことを思い出したのだ。
清蓮は自分のことで精一杯で、彼の名前を聞くことも、礼を述べることもできなかった。
名凛は意気消沈している清蓮に言った。
「あの方なら、また会えるわよ。心配しなくても」
「えっ? どうしてそう思うの? 君は彼のこと知っているの? 会ったことあるの? 本当にまた会えると思う?」
清蓮は前のめりになって名凛に質問攻めにする。
名凛はいつも穏やかな清蓮の変わりように驚いた。
「お兄様、落ち着いて! どうしたのよ、急に……」
「あっ、ごめん。君がそう言うから、そうなのかなって。ほら、君は勘がいいだろう、だからつい」
「それなら大丈夫よ、必ずまた会えるわ」
清蓮は名凛の言葉に頷いた。
勘の良い名凛が言ったのだ。
清蓮は縁があればいつか会えるだろうと思った。
「そうだね、また縁があれば会いたいな。あっ、そういえば彼はどうした?ここには来ていなかったみたいだけど」
名凛は清蓮の言う、もう一人の彼が誰なのか分かっていた。
「友泉 なら、お兄様が襲そうなのを見て、一番に飛び出していったわ。『俺が止める! 』って」
「はは……それは、大丈夫かなぁ」
清蓮は、友泉が嬉々として観客の波に飛び込んでいく姿を想像した。
清蓮は、友泉と対峙する相手を心から気の毒に思った。
名凛は清蓮の考えが分かったのか、清蓮にせっつくように言った。
「今のうちに、ちゃんと荒ぶる獅子を飼い慣らしておいてくださいね! お兄様が国王になったら、友泉にはちゃんと働いてもらわないといけないんだから! 」
(君は、もう十分飼い慣らしているだろう)
清蓮は思わず口にしそうになったが、言えば面倒になると分かっていた清蓮は、ただ苦笑するだけにとどめた。
「さぁ、お兄様。部屋に戻って休みましょう。今日は大変な一日だったけど、お兄様がどれだけ素晴らしいか、みんなに伝わったはずよ! 」
清蓮は名凛の賛辞をありがたく受け止めた。
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