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第17話

それからしばらく経ったある日。 清蓮(せいれん)は自室から眼下に見える梅花を眺めていた。 微風が淡く甘い香りを伴って、清蓮の頬をかすめていく。 清蓮は進みゆく季節を肌で感じながら、成人の儀で会った男を思い出していた。 押し寄せる人波から清蓮を救った(ひと)—— 清蓮はそっと自分の右手を胸に添えると、彼に抱き抱えられた時に感じた、どこか懐かしく心が温かくなる感覚を思い出していた。 きっと人生のどこかで、会ったことがあるはずだ。 それは日を追うごとに間違いないと思えたが、清蓮は未だにその男のことを思い出せないでいた。 「なぁ、あいつまだ来ないのか。いつまで待たせれば気が済むんだよ、まったく! 」 痺れを切らした友泉(ゆうせん)に話しかけられると、清蓮は現実に引き戻された。 「女性(にょしょう)はいろいろと準備があるんだよ。それくらい君も知ってるだろう? 」 友泉は貧乏ゆすりしながら、茶を一気に飲み干した。 「あぁ、めんどくせぇなぁ、なんだって俺があいつの護衛でついて行かなきゃいけないんだよ。俺じゃなくてもいいだろに」 友泉は行儀悪く長椅子に座った状態で両足を卓にのせると天を仰いで嘆いた。 「私の父と君のお父上が決めたことだろう。誰も文句はいえないよ」 「そんなこと分かってるさ。俺たちの親父は偉いからな、文句言えないけど」 友泉は治療のため宮廷を離れる名凛の護衛の一人として命を受けたのだ。 武官として日々父親である将軍のそばにいる友泉にとって、重要な任務とはいえ、退屈至極な任務であることは否めなかった。 「ご苦労さま」 清蓮と友泉と同様、名凛にとっても友泉は幼馴染であった。 清蓮は仕事とはいえ、妹の護衛はさぞ苦労するだろうと同情した。 そうこうしていると、廊下から若い女性(にょしょう)の声が聞こえて来た。

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