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第18話
「ほら、来たよ」
名凛 が部屋に入ってきた。
「名凛、今日は一段と綺麗だね」
名凛は清蓮 より二つ年下の妹だ。
清蓮と名凛は双子と思うほどよく似ていたが、その印象は少し異なる。
穏やかな清蓮は、淡く柔らかな春風を思わせ、溌剌とした名凛は、初夏の爽やかな風を連想させた。
その彼女が一段と美しく見えるのは、ちゃんと化粧をしているからであった。
兄の清蓮と瓜二つの名凛は当然のことながら美しかった。
ただ彼女には生まれながら左の額の一部に赤いあざがあった。
国王夫妻は生まれたばかりの赤子の顔にあざを見た時、痛く悲しみ、哀れに思った。
なんとかしてあげたいという親心に権力と財力が加わるとどうなるか。
嘆き悲しむ国王夫妻は、ことあるごとに国中のその道の権威とやらを呼び寄せ、金に糸目もつけず治療を施したり、名凛を治療に行かせたりと、なんとか彼女のあざを治そうとするのであった。
ただ彼らの権力も財力を持ってしても、国王夫妻を喜ばせることはできず、彼女のあざは顔の一部を赤く染めたまま消えることはなかったのである。
しかし、当の本人はというと、ある出来事を境にして、表面上は嘆き悲しむだけの自分に別れを告げ、両親の心配をよそに闊達に生きているのである。
清蓮は友泉 をちらりと見た。
あれだけ文句を言っていたのに名凛が入ってきた途端、どこかに消えてしまったかと思うくらい静かになったからだ。
友泉はどこかに消えていたわけではなく、ただ名凛の姿を前に、何も言えなくなっていたのだ。
「友泉、そんなに見つめてどうしたんだい? さっきまであんなに文句言ってたのに」
「えっ、あぁ、いや、なんでもない……。まぁ、その、何だな、孫にもなんとかってやつだな」
「よく言うわね! あなた、鼻の下伸ばして、私の美しさに驚いてたでしょう! 」
「な、何を言ってるんだ! そんなことあるわけないだろう!」
「さぁ、どうかしらねぇ? 素直に認めたらどうなの? 」
清蓮は、首を横に振ってぼやいた。
「また始まった、いつもこれだ……」
こうなると二人の痴話喧嘩はそう簡単におさまらない。
清蓮は知らんぷりを決めこんだ。
昔から幾度となく二人の仲裁に入ったが、上手くいかないばかりか、とばっちりを食うことも少なくなく、故に清蓮は決めたのだ。
二人の痴話喧嘩には二度と口を挟まないと。
それに清蓮は二人のやりとりよりも、侍従たちが運んで来た物が気になっていた。
それは、清蓮の身長と同じくらいの縦長のもので、布に包まれていた。
清蓮は嫌な予感がした。
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