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第19話

「さぁ、二人とも取り込み中すまないが、そろそろ時間だよ。あと、何となく分かるけど、一応聞いておこう。これは何かな、名凛(めいりん)? 」 「あら、友泉(ゆうせん)を相手にしてたら、大事なことを忘れるところだったわ。私、これをお兄様に差し上げたかったの」 名凛は、例の布に包まれた物を清蓮(せいれん)のところまで運ばせた。 侍従の一人が丁寧に布を外すと、清蓮と同じ顔をした蝋人形が姿を現した。 (やはり! ) (またかよっ! ) 清蓮と友泉は苦虫潰したような顔になった。 二人が呆れるのも無理はない。 名凛はとても変わった趣味を持っていたからだ。 名凛は、小さい頃から錠前作りや鋳造が好きで、暇さえあれば、宮廷のお抱え職人たちと、ものづくりに励んでいた。 人形作りもその一つだ。 名凛は、泥人形から紙を貼り合わせて作る張子、木彫りの人形など、ありとあらゆる人形を作って、清蓮や友泉に披露していたのである。 しかも、その人形を作り始めた時は、手のひらに収まるほどの大きさだったが、ここ最近に至ってはどんどん巨大化し、ついには等身大の蝋人形を作るに至ったのである。 名凛のその情熱はとどまることを知らず、そしてそれを止める術を誰も知らない。 清蓮は、名凛が作り上げる作品を見せられるたびに、時に賞賛、時に困惑のていで、兄としての勤めを果たすのであった。 名凛は二人の反応を無視して、ぱちんと指を鳴らした。 すると蝋人形はゆっくりと目を開き、口角を少し上げると、清蓮と友泉に微笑んだ。 人形は清蓮たちの周りをゆっくりと歩き始めたかと思うと、何と踊り始めたのである。 その踊りは多少のぎこちなさはあるものの、清蓮が成人の儀で披露した舞そのものだった。

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