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第20話
さすがに人形が踊り出すのを見て、二人は唖然とした。
名凛 はその様子に満足の笑みを浮かべ、もう一度指を鳴らした。
人形は踊りながら友泉 の前まで行くと、からかうように腰をくねらせ踊った。
「よせ、やめろって! なんてもん作ってんだよ、清蓮 ! 」
友泉には清蓮が艶かしく腰をくねらせ、迫っているように見えて、顔を真っ赤にしながら、思わず訳のわからぬことを口走ってしまった。
「名凛、やめなさい。友泉が困ってるじゃないか」
今度は清蓮がぱちんと指を鳴らした。
すると蝋人形は踊るのをやめ、先ほどまで名凛が座っていた長椅子の方にふらふらと歩いていく。
蝋人形は長椅子に腰掛けたところで、だらりと動かなくなった。
「それに、そんなふうに仙術 を使ってはいけないよ」
「だって友泉が悪く言うからよ、力作なのに! それに仙術って言っても、私これくらいしかできないのよ。いいじゃない、これくらい」
名凛は悪びれる様子もなく言い返した。
「十分悪いだろ。まったく、仙術を人形に使うなんて」
友泉は悪夢を追い払うように首を左右に振った。
「どうせ、あなたにとっては、たかが人形でしょうね。きっと私があなたに作ってあげたお守りとお人形も、とうの昔にどこかにやってしまったでしょうし」
「またその話かよ、捨てちゃいないって言ってるだろ! 何度言ったら分かるんだよ! どこかにいっただけだって! それにあんな鉄でできたお守り、誰が持ち歩くって言うんだ? 重くてどうしようもないだろ! 」
名凛は、「ふん」と鼻であしらうと、容赦のない言葉でたたみかける。
「知ってる? そう言うのを世間では捨てたと言うのよ! 私がどれだけ苦労して作ったと思っているの? 失礼しちゃうわ、まったく! 」
ぐうの音もでない友泉は、清蓮に向かって両手を合わせて懇願する。
「おい、清蓮、俺、ほんとに名凛のお守りするのかよ、じゃじゃ馬に護衛なんていらないだろう! 」
「いま、じゃじゃ何とかって聞こえたけど」
友泉の言葉に名凛の美しく弧を描いた眉は跳ね上がった。
二人は再び口喧嘩を始めると、清蓮は大きなため息をついた。
(友泉、君はいい加減学ぶべきだ。名凛にかなう者など、どこにもいないよ)
清蓮は椅子に座ると、長椅子に横たわっている蝋人形を見つめた。
(君の情熱はたいしたものだ。でも、この情熱はもっと別のものに費やしてもいいかもしれないね、名凛)
清蓮は、いつ終わるとも分からない二人のやり取りをぼんやり眺めた。
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