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第21話

清蓮(せいれん)は目を閉じ、まどろんでいると、名凛の透き通った声が聞こえてきた。 「お兄様、お兄様! もう、しばらく会えないっていうのに呑気に居眠りなんかして! 」 ようやく友泉(ゆうせん)との喧嘩が終わったのか、名凛(めいりん)が清蓮に声をかけてきた。 「あぁ、すまない。うとうとしてしまったよ」 「いろいろあったからな。じゃじゃ馬がいない間、ゆっくりするといい」 「すまないが、妹を頼んだよ」 「あぁ。あんまり頼まれたくはないが、頼まれたからには任せておけ」 友泉はなんとも言えない言葉で請け負うが、嫌味に聞こえないのは彼の実直な性格の賜物だろう。 そこにまた名凛が割って入って来た。 友泉が言い返そうとするのを清蓮がいい加減にしてくれとばかりに、慌てて止めにはいる。 「さぁさぁ、もうこの辺にして。名凛、今度はどこで治療をするんだい? 」 名凛はそれ以上友泉を追求せず、清蓮の質問に答える。 「太刀渡家(たちわたりけ)よ」 「太刀渡家? 」 「えぇ、お父様が何度もお願いして、やっと承諾してくれたっておっしゃっていたわ」 二百年続く友安国(ゆうあんこく)よりもはるか以前から続いていると言われる一族。 その起源は神に仕える神職と言われ、以前は魔物 や邪を祓い清めていたという。 そこから派生して仙術や医術などにも手を広げ、傑出した人物を何人も輩出していることから、一目も二目も置かれる一族であった。 その影響力は決して小さくはなく、宮廷や他の貴族階級にとっては脅威となりうる存在であった。 しかし、この一族は他とは異なり、政治には一切関与しないという、独自の立場を貫いていることでも有名であった。 宮廷には忠誠を誓い、友好関係を保ちながらも、常に中立という立場を貫くことによって、政治抗争という荒波の呑まれることなく、盤石な地位を維持してきたのである。 そういったいわくのある一族のもとに娘の名凛を治療に行かせるというのだから、国王夫妻の期待と切実なる思いはいかほどのものであるか窺われる。 一方、名凛はというと顔のあざのことはとっくに諦めており、最近では治療でどこかに行くというと、物見遊山にでかけるくらいの気持ちになっていた。 「じゃあ、行くわね、お兄様。友泉の面倒は私が見るから安心して! 」 友泉は文句を言おうとしたが、二人の邪魔をしてはいけないと、思いとどまった。 「気をつけて、行っておいで」 二人は互いをぎゅっと抱きしめた。 短い別れとはいえ、彼らにとっては寂しいものであった。 名凛はふと顔を上げて言った。 「お兄様、今思い出したんだけど、剣は見つかったの? 私が差し上げた鉄のお守り、まだ見つからないの? 」 名凛が言った剣とは、成人の儀で清蓮が使用した剣のことであり、いつも身につけていたお守り同様、騒動で紛失し、未だもって見つかっていないのである。 剣はともかく、名凛が作ってくれた鉄のお守りを無くしたことは非常に心苦しく、清蓮は申し訳なく思っていた。 「気にしないで。帰ってきたら、また新しいの作って差し上げるわ! 」 「何だったら、俺のをやろうか? 」 「いいから、もう行くわよ! 」 名凛は友泉の耳を摘むと、友泉を連れて部屋の扉に向かった。 名凛は振り向いて、清蓮に爽やかな笑顔を向けると、「行ってくるわ!」と部屋を後にした。

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